てきすとぽい
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第一回てきすと恋大賞
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退廃的デートのツークツワンク
(
司令@一字でも前へ
)
投稿時刻 : 2013.05.31 16:33
字数 : 2838
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退廃的デートのツークツワンク
司令@一字でも前へ
僕たちのデー
トコー
スは何というか変わ
っ
ていて、おし
ゃ
れなカフ
ェ
ー
だの、美味しいレストランだの、にぎやかなシ
ョ
ッ
ピングモー
ルはおろか、きらびやかな遊園地などとはほとんど無縁の世界に存在する、いわゆるメインストリー
ムから外れたと
っ
てもニ
ッ
チな脇道だ
っ
た。
ど
っ
ちから言い出したのか、いつの間に決ま
っ
たのかよくわからないけれど、僕たちは最寄の駅で待ち合わせて、二人でぼんやりと路線図を見ながらアドリブで行き先を決める。基準は面白い駅名だとか、とにかく遠くへ行きたいとか、こ
っ
ちから時代の風を感じるとか、他愛もないというか適当極まりないもので、特に悩むこともなく、急ぐこともなく、五分くらい話した流れで切符を買
っ
て改札口をくぐる。
彼女は駅のホー
ムのことを、冗談めかして、不思議の国のアリスになぞらえてラビ
ッ
トホー
ムなどと呼んでいるけど、それは僕にしてもなかなか言い得て妙で、椅子に座
っ
ているだけでどこか知らない場所に行ける駅のホー
ムは、時空が歪んでいるとても奇妙な空間に思えた。
だとするなら時に追われた白いウサギは切符のことだろうか、と以前、彼女に言
っ
たらなるほどと笑
っ
て、不思議の国についた瞬間消えち
ゃ
う無責任なとことかそ
っ
くりだよねなどと切り返された。
「ね
ぇ
、じ
ゃ
こちん」
電車に揺られつつ、彼女は僕を呼ぶ。僕にも親からもら
っ
たそれなりに普通の名前があるけれど、彼女は僕をそう呼ぶ。何でそう呼ばれているのか、由来は忘れた。気づいたら彼女は僕のことをそう呼んでいて、僕は彼女にそう呼ばれていた。
「電車にふら
っ
と飛び込んじ
ゃ
う人は、き
っ
とそこに不思議の国を見たんだよね」
彼女は窓の外を見ながら、いい天気だね、くらいに自然に、極当たり前のように、平淡な抑揚で呟いた。
「ふ
ぅ
ん、もしそうだとしても、そんなに不思議の国に行きたがるかな。あそこは決して理想郷じ
ゃ
ないよね」
「不条理が不条理として横行しているのなら、それは素晴らしい世界だと思うのよ。不条理が道理として通
っ
ているこの世界は、不思議以上に不可思議で、歪で、曲が
っ
て、気持ち悪い」
「じ
ゃ
あ僕らは不条理を不条理として感じるために、旅に出ているのかな」
ある場所においての合理は、得てしてよそ者にと
っ
ての非合理になる。
絶えず旅人であろうとする僕たちは、あまたの道理を非道理として通り過ぎることだろう。
「そうかもね。ううん、き
っ
とそう」
彼女も納得したのか、車窓の遠くを眺めながら頷いていた。
そして僕らは今日も、どうしようもない話に徒花を咲かせる。
◆◆◆
とにかく海に行きたい。今日はそんなリクエストだ
っ
た。
海は眺めるもので、聞くもので、絶対に泳ぐべきものじ
ゃ
ない。と
っ
ても広いし大きいし、底に足はつかないし、沖に流されたら戻
っ
てこれない。そのうえ、人食いザメや電気クラゲまで存在する。触らぬ神に祟りなしだ。だから僕は海を見ていた。否、海と戯れる彼女を見ていた。海の青さより、空の青さより、雲の白さより、彼女の肌の白さを。
「ね
ぇ
、じ
ゃ
こちん」
じ
ゃ
ばじ
ゃ
ばと白いサンダルで波打ち際を蹴りながら、彼女は足元を見つめたまま呟く。
「海はきちんと避妊をすべきだ
っ
たよね」
「処女懐胎だ
っ
たのかもよ」
「そうかもしれないけど、結局、養いきれなくて、陸に置き去りにしたんでし
ょ
」
「育児放棄か。それじ
ゃ
あ、陸はさながらコインロ
ッ
カー
だね」
「うん。これはゆゆしき社会問題だよ。陸はひどく窮屈。ずるいでし
ょ
、陸は平面的にしか暮らせないのに、海は横にも縦にも、立体的に生存できるだなんて」
「そり
ゃ
あ僕らに翼があ
っ
たら違
っ
たろうけど、だからこそ高層ビルを建てるんだろうね」
「高いとこは嫌い。落ちるから。はじめから地上にいれば落ちないのに」
「何だ結局、住処を狭めているのは君じ
ゃ
ないか」
「そうかもね。ううん、そうだ
っ
た」
その過去形が何を意味するのかはは
っ
きりと分からなか
っ
た。けれど、多分、彼女は変わ
っ
たのだろう。
「ね
ぇ
、じ
ゃ
こちん」
波で遊ぶにのに飽きたのか、僕の隣に座りこんで彼女は言う。
「今まで二次元にしか使えなか
っ
たゲー
ム盤が、三次元に使えたら全然別のゲー
ムだよね」
「そり
ゃ
あ、この世が囲碁か将棋か、チ
ェ
スなのかはたまたオセロなのか知らないけど。まあ、確実に変わるだろうね」
「駒は人かな。囲碁は人が変わらないことの比喩で、将棋は成長することを示唆してる。チ
ェ
スは死んだら生き返らないことを暗示してるし、オセロは人に裏表があることを教えてくれる」
「囲碁とチ
ェ
スは人の誠実さを、将棋とオセロは人の不実さを」
「そうね。後者は味方が敵になるもの」
「どれもこれもゼロサムゲー
ムだ」
「変わらないね。変わらないよ」
ふてくされて彼女はぼやく。それでも、彼女は変わ
っ
たのだ。成長か退化かは知らないけれど。
それでは、僕はどうだろう。果たして何か進歩したのだろうか。彼女と出会
っ
て、彼女と出かけて、彼女とデー
トを重ねて。それから、今まで、僕は何をしていただろう。何を成し遂げただろう。
「ね
ぇ
、じ
ゃ
こちん」
僕の隣で彼女は囁く。
「ツー
クツワンク
っ
て知
っ
てる?」
それは彼女にしては珍しい疑問形で、聞いたこともない単語だ
っ
た。
沈黙を保つ僕に、時間切れだと彼女は答えを告げる。
「チ
ェ
スでね、悪手を出さざる得ない状況のことなんだ
っ
て。何をしても結果が悪化するんだけど、手番のパスが禁止されているから何かするしかない
っ
て状態。ドイツ語で動きの強制
っ
て意味らしいよ」
「へ
ぇ
、それで?」
僕は愚か者を装
っ
て、知らないふりをして先を促す。だが、疑いようもなく、それこそ悪手だ
っ
た。
「今度は、じ
ゃ
こちんの番だと思うんだよね」
彼女は宣告する。僕の首に鎌を巻くように。
なるほど、まさに不条理だ。望むと望まざるにかかわらず、策もないのに残酷に順番は回
っ
てくる。
彼女は暗に伝えてきたのだ。
僕のせいで彼女が変わ
っ
たのだから、今度は僕が彼女のせいで変わるべきなのだと。
「変われるはずがないだろう」
「そうかもね。でも、そうじ
ゃ
ないかもしれない。だ
っ
て、ここは不思議の国だから」
無表情に微笑んで、彼女は僕に手を差し出す。
「今度は、私が手を貸してあげる」
ああ、彼女を連れだした過去の僕は、なんと無謀なチ
ャ
レンジ
ャ
ー
だ
っ
たのだろう。
はなから成功するはずもない試みだ
っ
た。それは彼女もわか
っ
ていたのだ。
結果的に奇跡は起きた。けれど、奇跡は二度も起こらない。
僕は諦めていたのだ。なのに酷いじ
ゃ
ないか。そんな希望を見せられて、縋りつかないはずがない。
「僕は、生まれるべきじ
ゃ
なか
っ
たんだ」
「そうかもね。でも同じように、生まれるべきだ
っ
た」
「僕が生きる意味はないんだ」
「そうかもね。でも同じように、死ぬ意味もない」
「疑いを拭い去れない」
「かまわない。同じくらい信じてくれるなら」
僕は、差し出された彼女の手を握り返す。
「これがツー
クツワンク
っ
て奴なのかい?」
「
……
ええ、握手を出さざる得ない状況
っ
てね」
彼女は僕の手を引
っ
張り、互いの唇を重ねさせた。
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