第53回 てきすとぽい杯
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野球の神様
投稿時刻 : 2019.10.19 23:44
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野球の神様
ポキール尻ピッタン


 まだその時ではないて野球の神様が教えてくれたんだと監督は涙ながらに記者へ呟いた。
 クライマクスシリーズ進出を賭けたこの最終戦を負けたのは、7つの四球を出した先発投手の俺ではなくて、どうやらこの球場に潜む神様のせいらしい。もちろん監督に個人攻撃ができないことぐらい分かている。それに俺を庇た訳でもないのも知ている。責任者として、今日の1戦だけでなくシーズンを通しての反省の言葉なのだろう。どうせしばらくは敗戦の責任を独りで抱え込むから、俺としては責められたほうが、いくぶん気が楽だたのだが。
 それにしても今夜の雰囲気は異常だた。オールスター前まで最下位を独走していた俺たちが日本シリーズ出場を狙えるところまで来たのだから、本来なら俺たちに勢いがあるはずなのだ。試合前のムードも皆リラクスしていて悪くなかた。ビジターとはいえ何度も来た球場だから、人工芝の癖や照明の当たり方まで全員が把握していた。
 初回、先頭の打者をキフライに打ち取た俺のボールはいつになく走ていた。コントロールもアバウトなシーズン中と比べてキが構えたミトの位置からたいして変わらない場所に投げられた。ひと言で言えばノリにノていたのだ。
 打者3人を抑えて初回を終え、2回表の攻撃でチームは3点をもぎ取り、一気に楽観ムードがベンチとブルペンに広がた。それでも俺たちは気を抜くことはなかた、はずだた。
 相手チームの5番打者は俺を苦手としていた。シーズン中の打率は2割を切り、外野へボールを飛ばされたことがなかた。だから打球が高く上がても安心していた。内角のストレートに詰また打球はフラフラと天井へ向かて飛んでいた。レフトがゆくり前進し、両手を広げて捕球の合図をした。初めて外野に飛ばされちたなと俺は唇を噛む。打者は頭から飛び込む勢いで1塁へ走ていた。ふとレフトが両手を下げた。打球はフンス際まで伸びて人工芝の上にポトリと落ちた。打者は2塁を回ている。センターが慌ててフローに行くが、すでに打者は3塁上で膝の土を払ていた。
「途中まで確かにボールが見えていたんだ。すまん」
 ベテランの焦燥した表情に誰も文句は言えなかた。センターもレフトの守備位置にボールが落ちると途中まで認識していたと言う。とりあえず天井の色とボールが重ならないよう気をつけようとキがまとめ、皆守備位置に戻た。
 試合中に感覚が狂うことなど多々ある。普段なら本人やコーチが気づき試合中にある程度修正できるはずだた。ただそれは、原因が言葉で表現できる場合に限ていた。今日の試合のように説明できないミスは例外だた。いつしか出場している選手だけでなく、監督やコーチまで、原因が特定できない不安を無意識に感じていた。
 スライダーが外角に大きく外れた。慌てて体でボールを止めたキが心配そうに俺を見る。フクがホームベースの手前で跳ねた。審判にタイムを要請したキが駆け寄てくる。
「大丈夫か?」
 別に体の調子が悪くなた訳ではない。いつも通り、当たり前にミトをめがけて投げていた。
「あいつは歩かそう」
 キの提案に頷き、試合が再開する。俺は立ち上がたキのミトへ敬遠を意味するスローボールを投げたはずだた。
 エレベーターやエスカレーター、あるいは歩く歩道に乗た感覚とでも言うのだろうか? 足元が動いていないのに目に映る風景だけが変わる感覚。ミトの位置が動いていないのに俺の視野が変わる感覚。
 ど真ん中に向かたボールはバトに一閃され観客の歓声に吸い込まれた。ソロホームランでまず1点。失投した意識はまるでないのに、狙た場所へ投げられたと確信できるのに、俺は混乱していた。
 その後の説明はいらないだろう。俺は瞬く間に崩れ4回途中で降板した。
 原因は自分でも分からない。イプスでも発症したのかと慌てた。心配になて球場内の練習場で投げてみたがなんの問題もない。ブルペンキもコーチも俺も首を傾げた。
 翌日、スポーツ紙に叩かれた俺は小さな記事を見つけた。俺たちのチームのバスが停まていた場所に昔、小さな祠があたという。呪いだと新聞は大袈裟に書いていたが、俺は当然信じなかた。その後、この球場でチームは連敗するが、いまでも俺は呪いなんて信じていない。
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