運ぶバス
高校生である私は毎朝同じバスに乗る。
バスには私と同じく学校に向かうため多くの学生が乗る。
そのひとりに疎遠にな
ってしまった幼馴染、津田貴明がいる。
いつのまにか津田と私は朝のバスで挨拶もしない関係となっていた。
津田と私は幼稚園からの付き合いで「タカちゃん」と呼び毎日のように遊んでいた。
男の子同士のごっこ遊びやら、緊張しながらバスを乗り継ぎ少々遠出をしたりと
非常に仲が良かった思い出である。
だが、中学生になったころから徐々に会う回数が減り、
高校生になってからは全く遊ぶこともなく、同じバスに乗ろうとも他人のようだ。
バスは様々な人間がそれぞれの経緯や目的があるにしても全く同じ場所に到着する。
しかし津田と住んでいる環境にしたら大差なく同じ学校に向かうという目的であるにも関わらず、
全くの他人のようになってしまったこと、それが非常に不思議だった。
ある日、生徒会活動が伸び、いつもより遅い時間、下校のバス停で津田と出くわした。
同じ学校であっても下校時間は違うことが多いので初めてのことだった。
さすがに周囲にほとんどふたりだけだったので話しかけたほうが良いものかと考えていたら、
察してか幼馴染的な直感からか津田から話しかけてきた。
「おい!お前、最近どうなん。」
それは私の知るタカちゃんの口調ではなかった。
環境が関係だけではなく彼自身の性格まで変えてしまったのか。
「ん、特にぼうっとして、なにも面白いことないかな。」
静かに、しかし非常にうろたえた私はつまらない返事しかできなかった。
「そうかい、お前はさ、女いねぇの。女ほしくね。」
ああ、どちらかというと繊細そうに見えた、というよりか今も殴りつければ簡単に砕けそうなほど弱々しく見えるのに、なぜそんなに低俗で荒らしい言葉を使うようになってしまったのか。
彼の生白い顔が余計に弱く見えた。
私が返事に困っているとバスが来た。
バスは私と彼を乗せた。
私と彼をそれぞれの目的地へと帰した。
その日以来、津田との会話はない。