てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第57回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
…
〔
2
〕
〔
3
〕
«
〔 作品4 〕
»
〔
5
〕
〔
6
〕
…
〔
13
〕
夜の底の暗闇で
(
ra-san(ラーさん)
)
投稿時刻 : 2020.06.13 23:33
字数 : 623
1
2
3
4
5
投票しない
感想:2
ログインして投票
夜の底の暗闇で
ra-san(ラーさん)
「本当は誰でもよか
っ
た」
彼女はそう言いながら、僕と今、駆け落ちをしている。
「家から逃げられれば誰でも」
教室で隣の席というだけだ
っ
た。夏でも長袖の彼女の服の下に、いつも真新しい青あざとタバコを押しつけられたような火傷の痕があることを僕は知
っ
ていた。
そんな彼女がこの日の下校の直前に、僕の耳元で「駆け落ちしよう」と囁いたのだ。
「酷いでし
ょ
?」
駆け落ちとい
っ
た
っ
て、バスで少し遠くの街へ移動しただけで、僕たちの財布のお金は寂しくな
っ
た。行く当てもない僕たちは、そのままこの街をふらふらと歩きまわ
っ
て、今は残
っ
たお金で買
っ
た自販機のコー
ンスー
プを二人で分け合いながら、空き地に放置された廃バスの横で、ひ
っ
そりと夜を過ごそうとしているところだ
っ
た。
「好きにしていいよ。あたしはさ、もう、終わ
っ
てるから。この身体はさ、親の酒代だ
っ
たから。だから、もう終わ
っ
てるんだ。もう
――
」
寄り添う彼女の肩はひどく軽くて、薄くて、頼りなくて、
「でも、誰かは必要だ
っ
たんでし
ょ
?」
だから僕は彼女の肩を抱いて、
「僕は君がよか
っ
た」
そう彼女の目を覗き込んだ。
「だから、大丈夫
――
」
言葉にならない声で泣く彼女を抱き留めながら、けれど僕たちの未来が、この朽ちたクジラの死骸のような廃バスと同じに無残な姿で終わるなんてことは、簡単に想像できることだ
っ
た。
「大丈夫
――
」
「うん、大丈夫
――
」
そう繰り返しながら僕たちは、互いぬくもりを支えにして、夜の底の暗闇に潰されないように耐えていた。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:2
ログインして投票