てきすとぽい
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第59回 てきすとぽい杯
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おむかえのにおい
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2020.10.17 23:43
字数 : 1168
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おむかえのにおい
住谷 ねこ
「お母さん、そろそろまずいのかも」
と、従姉が言う。
「まずい
っ
て?」
「だから、そろそろさ」
そろそろ。
そろそろ惚けてきた。
そろそろあぶない。
なにが?
そろそろ、そろそろ お迎えが来るのかもしれない。
そろそろ、死んでしまう。と言いたいのだろうか。
従姉は私の母親の弟の娘で二つばかり上だが
家が隣同士であり、どちらも一人
っ
子だ
っ
たので
小さい頃から仲がいい。
仲がいい? いいかな
ぁ
。
嘘。本当はそんなに仲が良か
っ
たわけではない。
でも、親戚だし仲のいい悪いに関係なくなんでも言い合える仲ではある。
それでも「死」と言う言葉は口に出しにくい。
「叔母さん、いくつにな
っ
たの?」
「八十八」
「どこか具合悪いの?」
「まあ、特には。年々痩せてはいるけどあの年では普通でし
ょ
う」
「食欲なくな
っ
たとか?」
「うー
ん。それも特には。油
っ
こいものとかは食べなくな
っ
たけど」
「牧田さんとか、幸人とかなんて言
っ
てんの?」
牧田さんは、従姉のご主人で幸人は従姉の子供だ。
「牧田はいつもと変わらないだろう
っ
て、幸人は朝は早いし、夜は遅いし
ほとんどお母さんと会わないから聞いてもない」
「ふー
ん」
「そういえばさ、幸人は?いくつにな
っ
たの?」
従姉はそんなこと聞くな、と言いたげに嫌な顔をしてぼそ
っ
と言う。
「四十だよ」
結婚は?とは聞かない。聞かなくた
っ
てわかる。
付き合
っ
てる人がいるのかどうかはち
ょ
っ
と聞いてみたいけど
もしかしたら従姉も知らないかもしれないよね。
「大丈夫だよ」と、無責任に言
っ
てみる。
「そうかなあ」
「なんで、そう思うの?」と聞いてみる。
「匂いがね、最近するの」
「匂い?」
「タバコの」
「たばこ?」
「時々、ふ
っ
……
っ
て。一瞬、すれ違うみたいにね匂うの」
「
……
」
「お父さんの、お父さんと同じタバコの匂い」
「叔父さんのたばこ?」
「気のせいかとも思うのよね。匂
っ
てるの私だけみたいだし」
「
……
」
「母も、におわない
っ
て言うし」
湯飲みに手を伸ばしたけど、飲むのをやめた。
もう入
っ
てなか
っ
た。
「お茶、入れなおすよ」と立ち上がると
「あ、いいわ。郵便局しま
っ
ち
ゃ
うから、先行
っ
てくる。帰りにもう一度よ
っ
ていい?」
そう言いながらあわただしく出て行
っ
た。
なるほど、叔父さんが迎えに来ているのではないかと言いたいのか従姉は。
叔父さんはものすごいヘビー
スモー
カー
だ
っ
た。
あの頃はそういう時代だ
っ
た。
一日に3箱位吸うらしか
っ
た。
叔父さんが亡くな
っ
たのはいつだ
っ
た
っ
け。
叔母さんと従姉が、こんなに吸
っ
ているとのだとい
っ
て叔父さんの吸い殻を
ク
ッ
キー
の缶に溜めて家に来たことがあ
っ
た。
「義姉さん、これた
っ
た二日分なのよ、義姉さんからも何とか言
っ
てや
っ
てくださいよ」
とかなんとか。
缶は蓋を閉めていてもものすごく臭か
っ
た。
「あるかもね」とち
ょ
っ
と思う。
死んだら何も残らないと思う方だけど。
まあ、あるかもね。
そんなことも。ね。
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