てきすとぽい
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第59回 てきすとぽい杯
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夏の日の思い出が白く眩しく思えるのは
(
ra-san(ラーさん)
)
投稿時刻 : 2020.10.17 23:07
字数 : 833
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夏の日の思い出が白く眩しく思えるのは
ra-san(ラーさん)
夏の日の思い出が白く眩しく思えるのは、き
っ
とそれが二度と手に入らないものだと知
っ
ているからだ。
「スイカ」
「おう」
農作業の手を止めて、あたしが突き出したスイカを受け取
っ
た浩太は、適当な段ボー
ルにスイカを入れて軽トラの荷台に積み込む。
「あー
、お盆休みにさ、帰省するの
っ
て、その、何年ぶりだ?」
「忘れた」
背中をむけてその作業をする浩太のぎこちない質問に、あたしはそ
っ
けなく答えた。面倒な距離感を取ろうとする浩太の横に近づいて、あたしは思いつきを口にする。
「荷台、乗せてよ」
「暑いぞ」
「夏だからいいじ
ゃ
ん」
麦藁帽子をかぶ
っ
ているあたしが、つば越しの上目遣いに笑
っ
てみせると、浩太は照れたように目を逸らして「好きにしろ」と、運転席に乗
っ
てしま
っ
た。
「昔さ、告白されたじ
ゃ
ん。こういうく
っ
そ暑い夏の日」
走り出した軽トラの座席の後ろの窓を開いて、荷台と運転席で会話する。あたしは白い太陽を見上げながら、昔話に花を咲かせてあげる。
「ああ、黒歴史な」
「ひどくない? あたしの中ではビ
ッ
カビカに美化されてるよ?」
「振られた記憶なんてそんなもんだろ」
そんな眩しい過去があ
っ
たのは、もう十年も昔の話だ
っ
た。
「まあ、ふ
っ
と思い出したのよね」
「相当、弱
っ
てんだな」
進学して、上京して、就職して、結婚して、離婚して、故郷で再会した幼馴染の軽トラの荷台の上で、あたしは夏の風に吹かれていた。
「でもさ、久しぶりに会
っ
てさ、や
っ
ぱり美化は美化だな
っ
て」
「ひどくない?」
土の臭いにまみれた浩太の手は思い出よりもたくましく、二人の子供を抱き上げる、家庭を支える力強い父親の腕だ
っ
た。
「でも元気出た」
「それはよか
っ
た。振られた甲斐もあ
っ
た
っ
てもんだ」
浩太が快活に笑う。あたしも快活に笑
っ
てみた。そう聴こえればいい。
「いいね、幼馴染」
「だろ?」
屈託のない声。あたしは安堵の息を吐いた。
何も後悔はないけれど、あたしは麦藁帽子の下から白い太陽を眩しく見上げた。
夏の匂いが満ちている。
でも、あの夏の匂いはもう戻らない。
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