てきすとぽい
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第6回 てきすとぽい杯〈途中非公開〉
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ユルミナン
(
雨之森散策
)
投稿時刻 : 2013.06.15 23:38
最終更新 : 2013.06.15 23:43
字数 : 1769
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2013/06/15 23:43:22
-
2013/06/15 23:42:06
-
2013/06/15 23:38:26
ユルミナン
雨之森散策
「せんせい、こんなんでいいのですか?」
そう言
っ
て彼女が挙げた手は少し低く、指は開いていた。
「良いわけないでし
ょ
、そんな緩さで」
「え?」
「も
っ
と緩く! 緩くするのよ!」
先生の声は緩くなりかけた教室の空気を切り裂くように鋭か
っ
た。彼女は逆にピンと張り詰めた顔でごめんなさい、と手を下ろす。ゆ
っ
くりと。
「そうよ! 今の下ろし方よ! 分か
っ
てきた?」
「え? え?」
「だからダメよそんな声じ
ゃ
! 声も緩くしなさい!」
「ふ、ふ、ふ
……
ふあい」
「よし!」
――
二人の応酬を僕は少し斜に構えて見ていた。まるでアホみたいだ。
「今度は君のばんよ、さあ話してみなさい」
「あ? 僕もですか?」
先生は憤懣の表情を更に強めた。
「あなたもよ! 子どもは皆、そうしなき
ゃ
いけないの!」
ヒステリ
ッ
クに叫んだ先生の眉は『へ』の字に曲が
っ
ている。やれやれだ。
「どうしてこんな事やらなき
ゃ
いけないんですか? バカじ
ゃ
ね?」
「そんな言葉遣いはダメよ! も
っ
と緩くしなさい! も
っ
と!」
……
わけが分からない。
「ふえいふえい」
いつまでもこんな所で居残りをさせられるのも時間の無駄と思い、僕はとりあえず緩くや
っ
てみた。隣の席の彼女は怯えるような目で僕と先生を見ている。こいつもアホだ。
「
……
そうよ。それでいいの」
「ほうでし
ゅ
か
ぁ
? ボクちん、こんなんでゆるゆるに見えまし
ゅ
か? せんし
ぇ
いのおめめはち
ゃ
んと見え見えしてまし
ゅ
かねえ?」
唇を突き出して先生へ向けると、それまで軟化していた先生の顔が一気に急変した。
「それは緩いんじ
ゃ
ない!」
同時に不愉快な音が耳をつんざいた。先生がその爪で黒板を引
っ
掻いたのだ。
「もう、うるせえよ!」
「その態度を改めなさい、と先生は言
っ
てるのよ! 手遅れになるかもしれないのよ!」
眼が血走
っ
ていた。僕は反射的に叫んでいた。
「何が手遅れだ! アホ! 勉強はち
ゃ
んとや
っ
てるんだ、逆にこんな事に付き合
っ
てると受験が手遅れになるだろうが! 死ねババア!」
隣の席の彼女が耳を塞いで机に突
っ
伏した。顔を青ざめた先生は糸が切れたように教卓に寄りかかる。
「
……
そうね。あなたはち
ゃ
んとや
っ
ている。それで良いのね」
まるで世界が終わるみたいな顔をしている。なんだこいつ。言うこと言
っ
てしま
っ
たし、この場合は教室を出て行くのが格好がいいだろうかと僕は思
っ
た。
「じ
ゃ
あ、明日は塾が早いんで帰ります」
「あ、あの
……
」
隣の席の子が何か言いたそうにしていたが僕は無視した。先生は燃え尽きたようにその場で固ま
っ
ていた。
学校を出て、僕はひとまずコンビニに向か
っ
た。お腹が空いていたし、漫画誌も買いたか
っ
た。空の夕暮れが深ま
っ
ている、本来なら手早く買い終えて塾へ向かわなければいけなか
っ
た。
「みんな、ち
ゃ
んと真
っ
直ぐ家に帰るのよ?」
「ほあああい」
レジにいるおばさんの言葉に三人組の高校生と思われる男どもが合唱していた。アホまるだしの顔で。
レジに雑誌と調理パンと炭酸飲料を放り出す。おばさんは不愉快げに僕の顔をみた。アホの顔だ
っ
た。
「真
っ
直ぐ家に帰るのよ?」
同じような事をおばさんは僕に言
っ
た。支払いを終えた後で僕は、
「死ね」
と顔を突き出しておばさんに言
っ
てや
っ
た。それだけでまるで大事件のようにおばさんはうろたえ、背面の煙草が詰ま
っ
た棚にぶつか
っ
た。ち
ょ
っ
と愉快だ
っ
た。自動アナウンスが「ありがとうございました」と言
っ
たのでも
っ
と愉快だ
っ
た。
「死ね、死ね、みんな死ね」
まるで魔法の言葉だ。それを言うとどの大人も青ざめ、または顔を背け、世界が終わ
っ
たように慌てふためく。なにが緩くだ。なにが手遅れだ。手遅れなのは脳みその緩みき
っ
た大人のほうだ。
夕暮れが深まると夜になる。夜にな
っ
たら子どもは外出してはいけないと法律でも決ま
っ
ているらしいが、警察官がそこらをうろついている訳でもない。
夕暮れは黄色か
っ
た。ふだんは白い空が少しずつ東の方角から黄色に染ま
っ
てゆき、やがては夜になると青一色になると言う。僕はその青一色の空を見たことがない。大人になれば見られると両親に教わ
っ
たが、その両親でさえ間近に見たことはないようだ。
このままあてもなくブラついて青一色の空を見てやろうかと思
っ
た。き
っ
と何も楽しくない、何てことないものだろう。それを明らかにしたいと思
っ
た。
その夜、世界は滅亡しなか
っ
た。崩壊は緩やかに進んでゆくのだろうと僕は思
っ
た。
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