てきすとぽい
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第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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金魚累々
(
Wheelie
)
投稿時刻 : 2013.08.17 20:05
字数 : 1000
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金魚累々
Wheelie
「金色じ
ゃ
ないんだ」
教科書から立ち上がるホログラフ
ィ
ー
を見ながら、美来は夢見るように言
っ
た。
「赤いんだね。お祭りの日に金魚をすくうんだ
っ
て」
史子は注釈を読む。水の映像の中を金魚が一匹、悠々と泳いでいる。教科書を挟んだ向こうの美来が、水色にゆらゆらと輝いている。
「素敵」
本を閉じると映像は消えた。寂しそうに目を伏せる美来に、史子の胸は締め付けられる。
史子にと
っ
て美来は初めての友人だ
っ
た。この国にはもう女子は殆ど生まれてこない。史子はネ
ッ
トでCADデー
タを検索する。金魚は見つからない。小遣いで買えそうな値段で、フナのデー
タを見つける。なんとかできるかも知れない。美来に笑
っ
て欲しいと史子は思う。
「フナのデー
タ?」
「うまくいくといいけど」
史子と美来は夜の中学校に忍び込んでいた。
「形状を金魚に似せて作り直したの。筋収縮のプログラムも組んだ」
給食室の鍵を開け、細胞のパ
ッ
クを探す。
「マグロとタイ、ど
っ
ちの細胞がいいと思う?」
「食べるわけじ
ゃ
ないしど
っ
ちでも」
3Dプリンター
に細胞と改造フナのデー
タを入れる。温度が上昇し細胞分裂が開始する。十分後、小さな赤い魚の形状をした食肉が十個出力される。
「泳いだ!」
寸胴鍋に入れられた食肉は尾びれを振り泳ぎ始める。
二人は金魚を夜のプー
ルに放
っ
た。
「生きているみたいなのに、繁殖能力は無いんだね」
美来は魚影を目で追
っ
ている。
「私達と同じだね」
体内のカルシウムを使い切
っ
てしまえば、筋収縮は停止し腐敗が始まるはずだ。史子は泳ぐ影を数える。一、二、三
……
。
「じ
ゅ
うさん?」
「これを見て!」
美来が足元の金魚を指し示す。頭部が二つあるそれは、悶えるように水中で身を捩る。食肉は二つに分裂する。
「うそ、どうして」
気付けば水中の金魚は随分と増えている。美来の笑顔が白く光る電灯に照らされる。
「金魚すくいしよう!」
金魚すくいがどんなものか二人は知らなか
っ
たけれど、制服のままプー
ルに飛び込み食肉を追いかけた。手のひらですく
っ
てはバケツに入れる。水音と二人の笑い声が夜に染みていく。
二つのバケツは金魚で一杯にな
っ
た。
「これどうしようか」
「海に放しに行こうよ」
事も無げに言う美来に、史子は驚く。
「大丈夫かな」
「どうせこの世界はもう長くないんだし」
大切そうにバケツを抱えた美来。濡れた髪。無邪気な微笑み。
「そうだね」
この笑顔をも
っ
と見ていたいと史子は思う。それから金魚で一杯にな
っ
た海も。
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