みたびかよたびかわすれましたがしょうせつのかきかたをわすれした。
東京のとある貧民層窟に、日雇いくんという人が住んでいました。
日雇いくんは基本的には小説が好きなのですが、飽き
っぽい上に気まぐれなので、最近は将棋倶楽部24でネット対戦ばかりしていて、すっかり小説の書き方を忘れてしまいました。
そんな日雇いくんをさておき、ネット小説界ではてきすとぽいがしみじみと隆盛、主催杯も第8回を迎え、老舗の投稿サイトとして十年続いたアリの穴もなくなった今、次世代投稿サイトとしての役割を果たしつつあるところでした。
ある日、日雇いくんはよせばいいのに将棋を6時間も指し続け、おまけに負けてばかりいてすっかり疲れてしまったので、気分転換にツイッターを見ることにしました。
すると、『第9回てきすとぽい杯』の文字が見えました。
「あっ、そういえばそんなものがあったなあ。たまには書いてみるかあ。なんたって本業だもんね」
誰にも認められていないというのに、日雇いくんはどういうわけか、十年前から小説を書くのが本業だと勝手に思い込み、親兄弟や友人に迷惑をかけ続けていました。
しかしあまりに認められないので、ついには小説どころか人生にも飽き、もういつ死んでもいいやでも痛いとか苦しいとかはやだなあラクしてトクしてイタダキたいなあと、好き勝手なことをほざいていました。
「ようし、たまにはこの超絶技巧の俺様が書いてやるかあ! 皆の者、傑作を眼前に出来る事をありがたく思え!」
ということで日雇いくんは、お題を見てみました。
「父のスーツ? ……………………さすがの俺様も、このお題で面白いものが、果たして書けるもんかなあ」
日雇いくんはとりあえずお題に沿ったものを考えてみましたが、洋服の青山がどうしたとか、都営荒川線沿いを歩いた時コナカで見た洋服が安かったなあとか、その店の前に置かれていた服を持ってそのまま逃げればうまいこと手に入れたれたかもなあとか、あああの時自転車乗ってりゃよかったとか、とにかくろくなことを思いつきません。
「もういいや! お題が悪いしめんどくなったし寝よう」
加齢による衰えと勉強不足を棚に上げ、日雇いくんは睡眠薬を飲むとそのまま寝てしまいました。
次の日、夕方まで寝ていた日雇いくんは起きるとすぐ将棋倶楽部24で将棋を指しましたが、やはり負けまくってばかりいるので飽きてしまい、いやらしい無料動画を堪能した後、ふと、ぽい杯のてきすとぽいを思い出しました。
「ああ、そういえばぽい杯どうなったっけ」
さっそくページを見てみると、みんな普段から書き慣れているだけあって、どれも出来のいいものばかりでした。
しかし日雇いくんは性格がひねくれまがっているので、素直にみんなの出来を認めることができませんでした。
「ふん! 俺様が本気出せば、こんなのより面白いもの書けるわ! 死ね! 死ね! みんな死ね!」
日雇いくんは怒りを顕にすると、そのままふて寝してしまいました。
そして数日が過ぎた頃、てきすとぽいでは第9回の結果発表が行われました。
「ああやっぱりあいつか。出来がよかったもんなあ……」
あいかわらず将棋で負け続けた後ツイッターを通して結果をみた日雇いくんは、人の成果を否定した事も忘れ、しみじみと優勝作の出来を思い返しました。
「父のスーツ……チッチのスーツだったらよかったのになあ。」
普段からくだらないダジャレを言ってまわりを辟易させている日雇いくんはそう口ずさむと、小学生の頃お姉さんが買ってきたちいさな恋の物語の何巻かに出てきた絵を思い浮かべました。
すると、こんな疑問が湧きました。
「チッチって、スーツ着てたことあったっけ?」
さっそく日雇いくんは、インターンメットもといインターネットで有名なグーグルというサイトに行きチッチのスーツについて検索を開始ようするにぐぐることにしました。
しかしあまりに写真が多すぎてめんどくさくなってしまい疲れてしまったので、もういいやとふて寝してしまいました。
「考えてみたら、そんなこと知ってもどうでもいいもんな。ちっちって感じだぜ」
日雇いくんは右手人差し指を左右(寝っころがってしまっていたので上下かもしれませんが)に振ると、そのまま翌日の夜までぐっすりと眠ってしまいました。
めでたしめでたし。