5 / 5
頭全体が熱を持っていて、ぐわんぐわんとひどい頭痛がした。
冷たい床にうつぶせに倒れていた。どうしてこんなところで転がっていたのか思い出せない。目蓋をうっすらと開ける。見覚えのある乱雑なタバコ臭い部屋。経済的じゃないから禁煙すればいいのにといくら言っても安東くんはタバコを辞めてくれなかった。いい加減付き合ってんだから名前で呼べよ、なんて言うので、タバコを辞めないなら名前で呼んであげない、と言っても安東くんはタバコを辞めようとはしなかった。一も二もなく私への愛よりもタバコを取るのかこの男は、と思ったら途端に興ざめした。付き合い始めて一ヶ月ちょうど。結局安東くんのことを名前で呼ぶことはなかったなぁ、なんて。あぁそうだ、別れ話をしてたんだっけ。
ゆっくりと体を起こして、気がつく。
すぐそばに、ショートカットにスカジャンというなんともボーイッシュな格好の女が立っていた。立ち尽くしたまま、微動だにしない。こちらに背を向けている。
何を見ているんだろうと思ったら、本棚にもたれて首を変な方向に傾けている安東くんの姿が目についた。
そうだった。私は安東くんに引っぱられて転んで――で、なんで安東くんがこんなことになってるんだ? この女は何?
一体何が起きたんだ?
そろそろと立ち上がった。なんだか顔が湿っぽい。頭から出血しているようだ。救急車を呼んでもらおう。声をかけるつもりで、その女の肩を背後から叩いた。
ばっと振り返って私の顔を見た瞬間、女が「ぎゃぁぁぁ!」というかわいげもクソもない悲鳴を上げた。
女は私の手を振り払おうとして足をもつらせ、安東くんの隣にうつ伏せの状態でびたんと倒れた。
大丈夫? と声をかける間もなかった。
何の不幸か、割れたお皿の破片が彼女の首の側面を深く抉っていた。真っ赤な血潮が噴き出て私の視界を染める。
そして私は一人、この部屋に残された。
シングルベル、シングルベル、鈴が鳴る♪
続きを読む »