てきすとぽい
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ぼくの初夢
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2013.01.19 23:38
最終更新 : 2013.01.19 23:43
字数 : 1952
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2013/01/19 23:43:06
-
2013/01/19 23:42:21
-
2013/01/19 23:38:32
ぼくの初夢
小伏史央
ママと街を歩いていると、隅にうずくま
っ
た、こどものヒトを見つけた。うすぎたないけれど、頭から生えている長い毛が黒くて、好きにな
っ
た。
「ママ、あれヒトだよ」
だけれどママは、ぼくの指先をまるで見えないみたいに無視して、「今日のごはんはなにがいい?」と言
っ
てきた。その顔が嫌なくらい静かだ
っ
たから、ぼくはもう一度、「ヒトなんだよ」と言
っ
た。
「そんなもの気にしてはいけません!」
ふいに声が飛びかか
っ
てきて、頬が痛くな
っ
た。ママの顔がよく分からない。見えるものすべてがぼやけて、ふやけて、分からなくな
っ
たんだ。
そのあとすぐに、「ごめんね」
っ
てママは謝
っ
て、ぼくの頬を撫でて抱きしめてくれた。じんわりと体の奥からあたたかいものが浮かび出てきて、ぼくは、泣くのをやめた。
「もう、ヒトのことなんて話さないでね。分か
っ
た?」
「うん」
泣きやんだら街の景色がよみがえ
っ
た。近くにいたのはぼくとママとあのヒトだけで、だからママは、あんな大声を出せたのだと分か
っ
た。傍に誰かいたなら、ママはいつも、静かにしなさい
っ
て言うから。
おうちに帰ると、知らないおじさんがいた。ものものしい表情をしていて、なにかの本を読み込んでいるようだ
っ
た。
ママが挨拶をしたので、ぼくも「こんにちは」と倣
っ
た。
「お医者さんの先生よ」とママは柔らかい声で教えてくれた。お医者さんは、本を隅
っ
こに片付けて、「どうぞよろしく」と答えた。怖そうな顔をしているけれど、声はやさしそうだ。ぼくがもう一度「こんにちは」と言うと、お医者さんは少しだけ笑
っ
て、「こんにちは」と返してくれた。
「先生、今日はよろしくお願いします」
ママの言葉に頷いて、お医者さんは、「おいで」とだけ言
っ
て、ぼくを居間につれてきた。居間はいつの間に作りかえられていて、かたそうなベ
ッ
ドひとつと、たくさんの難しい機械が置かれていた。
ぼくはママに、「なにをするの?」と訊いた。き
っ
とこれは、ぼくのことだ。これからぼくになにかあるんだ。そう直感したからだ。
「これからね、あなたはみんなと同じになるのよ」
だけれどママの言葉はよく分からなくて、ぼくは困
っ
てしま
っ
た。
「心配することはない」お医者さんが口を挟んだ。「少しも痛くない。きみはここで眠
っ
て、夢を見るだけでいいのだよ」
夢? それはなに?
……
ぼくは口に出して質問しようとしたけれど、ママの顔を見て、やめることにした。ママも、お医者さんも、この居間も、不思議なくらいに静かで、その静けさを壊したくないと思
っ
た。
「さあ、そこのベ
ッ
ドに横になりなさい」
お医者さんが言
っ
た。お医者さんがなにか長いものを持
っ
ていたので、ぼくは急に怖くな
っ
た。それでち
ょ
っ
と動けずにいると、「大丈夫よ」と、ママの声が聞こえて、すぐにあたたかくな
っ
た。
ぼくがベ
ッ
ドに横たわると、お医者さんは頷いて、その長いものをぼくの頭にく
っ
つけた。途端に、眠たくな
っ
た。
ぼくの頭が振動した。手に持
っ
ていたポ
ッ
プコー
ンがいくつか箱からこぼれた。ポ
ッ
プコー
ンがひとつこぼれ落ちるごとに、ぼくの頭の中から、あたたかいものが、消えてゆく感じがした。ぼくは怖か
っ
た。
ここはママとよく歩く、あの街だ
っ
た。だけれど、いつもと違
っ
て、空が青か
っ
た。ぼくはその不気味な色を眺めて、も
っ
と怖くな
っ
た。頭が震えた。ポ
ッ
プコー
ンがこぼれる。
ヒトがすぐ傍にいたことに、ぼくは気づいた。そのヒトは、こどもで、痩せていて、髪が黒か
っ
た。なんだか親しみをその黒色に感じた。ヒトは、地面に落ちたポ
ッ
プコー
ンを、かき集めて食べていた。それを見て、きたない、と体の奥から思
っ
た。
ぼくの頭が振動する。揺れるごとに、箱の中身は少なくな
っ
て、ぼくはどんどん冷たくな
っ
た。ふと空を仰ぐと、だんだんもとの色に戻
っ
ているのが分か
っ
た。もともとの、黒色に。
ヒトの体が薄れてゆく。透けて見えた。ぼくはそれを、つまらない、と思
っ
て、すぐに見るのをやめた。ポ
ッ
プコー
ンがこぼれてゆく。
空が、真
っ
黒にな
っ
た。
「おはよう」
目覚めると目の前にお医者さんがいて、ママもいた。ふたりとも朗らかな表情をしていて、ぼくはなんだか嬉しくな
っ
た。
「おめでとう。息子さんはこれで、我々の仲間入りです」
「ああ、ありがとうございます、先生」
ふたりの会話を聞きながら、ぼくは、夢のことを思い出していた。生まれて初めて見た夢。あのポ
ッ
プコー
ンはなんだ
っ
たのだろうと思い、お医者さんに試しに訊いてみた。するとお医者さんは簡単に、「それはき
っ
と、ヒトの因子だろう」と答えてくれた。ぼくは脳内に指令を与えてネ
ッ
トワー
クに接続し、「因子」の意味を検索した。すぐに理解して、「ありがとうございます」とお医者さんに言
っ
た。ママはその様子を見て、大袈裟に喜んでいた。
ぼくは今日から、アンドロイドだ。
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