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(現代語訳)
鉄棒でもなく、渇望でもなく、ましてやうまい棒でもなかった。
人類の黎明期、とある原人の群れが諍いを起こしていた。
「ちょっと待てや、こら。お前ら、人の餌場荒らすわ、メスにちょっかい出すわ、タチが悪すぎるんじゃ。この大地溝帯から出て行けや。いい加減、これ以上辛抱できんぞ、おう」
「そんな。私ら森の奥の木の実を食べているだけですし、ましてやメスにちょっかい出すなど。ちょ、ちょっと一目ぼれしたと言いますか。あなたもオスなら分かるでしょう。お互い平和にいこうじゃないですか」
「じゃかましいんじゃ、ボケ。言い訳かますんなら、さっさと出ていけや。お前らみたいな身勝手な種族はお荷物なんじゃ。北へ行けや、北へ。ここはわしらの土地じゃ。まだ迷惑かけるつもりなら、覚悟せえよ」
北の土地は荒涼とし、餌も少ない。飢えた獣が徘徊し、希望の一欠片もない場所だった。
「おうよ、お頭に逆らったら、ただじゃすまんぞ。俺ら、ぶんどったり寝取ったりしたら承知しないから、略してBNSKじゃ。俺らを怒らせたら、アフリカやユーラシア程度ですむと思うなよ。ぐだぐだしとったら、アメリカ大陸の最南端まで追いかけ回したるわ」
こうして一つの種族が大地溝帯から追放され、やがてアフリカ大陸からも遁走することとなった。
しかし、お頭は彼らが憎くて追い出したのではない。この瞬間こそ、文学の誕生だ。絶望からの再起。彼らが立ち直ることを願うお頭の胸中には、葛藤という新たな感情が芽生えていた。
「しかし、お頭、あれですな。あいつら、上手く乗り越えてくれるんやろか。なんやもう、俺、こんな気持ちはじめてや。なんで他人の心配しとるんやろ」
「さあ、それこそ神のみぞ知るちゅーやっちゃ。さて、わしらも狩りに出掛けるぞ。うちのカミさん、腹に子供がおるせいか、獲物少ないとめっちゃこわいねん」
日差しが強くなったブッシュに、影が二つ。その彼方に、象の群れが歩いていた。
こんなちっぽけな存在なのに、どうしてわしら子孫をつくっとるんやろ。
またしても考えたこともない疑問が頭をよぎる。
それを振り払うかのように、地平線に向かって二つの影は走り出していた。
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