第1回てきすとぽぽい杯(15分拡張版)中止と見せかけ、ゲリラ開催
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鬼教官
みお
投稿時刻 : 2014.09.20 23:51
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鬼教官
みお


 誰かのお腹が鳴た。
 ……と、また別の誰かが言た。彼が言うとおり、たしかにこの静かな職場にきうう。と情けない音が響いた。
 それは、腹の虫が鳴く音である。

 だらしがない。情けが無い。我慢の足りないやつもいたものである。
 恐らく、配属したばかりの若いやつだ。若いやつはすぐに腹を鳴らすし、無礼ものだし軟弱ものだしで話にならない。
 教官である私は、いつもこの季節に苦労する。
 すなわち、お客様がたくさんやてくる、繁忙期たるこの季節である。いくら私がしかりしていても、部下がこんなものでは話にならぬ。
 かつては多くの部下に畏れ、怯えられていた私である。鬼教官などとも言われていた私である。
 最近は年のせいかどうにも優しくなたと噂されているが、それでも若者の指導に手を抜くわけにいかぬ。
「お前達。ひとつ、言ておく」
 部下を全員あつめて広場に整列させ、背を正させる。その合間を、私はわざとゆくり足音をたてて歩く。
 若者たちの顔が青く赤く染まる。緊張をしているのか、歯を鳴らすものもいる。しかし同時に、腹を鳴らすものもいる。
「いくら我らが鬼だといても、地獄に来る人間は言わばお客様。取て食うことはゆるさんぞ」
「でも、教官」
 一人の若鬼が元気よく手を上げた。
「あれ、食べられるんでしう」
「あれ、とは」
「おはぎ。噂じ、彼岸の入りの時に地獄に来るやつらはみんな持てるてききました
 きな粉、粒あん、青のり。
 誰かが言た。同時に、あちこちから腹の音の大合唱。
 なんという、軟弱さ!
「馬鹿か」
 怒鳴て雷を落としてももう遅い。
 止まらない腹の音。ヨダレを垂らす赤鬼青鬼。そこにやて来たのは酷く悪い顔をしたお客様の一行だ。
 人の一人や二人殺した事のありそうな、強面の顔が私達を見るなり恐怖に歪む。
 背にそびえるのは炎の山に、血の海、針の山。
 そこに並ぶは腹を空かせてヨダレを垂らす鬼の群れ。
「ようこそ」
 地獄へ。と、若い鬼がサービス精神いぱいに微笑んで見せる。強面が悲鳴を上げる。
 まあ、結果オーライという奴だ。私はそう思てため息を付く。そんな私からも、きうなり出す腹の虫。
 今日は早く仕事を終わらせて、ととと和菓子屋に行こう。そう思た。
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