第22回 てきすとぽい杯
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魔法少女☆胸キュン大作戦
投稿時刻 : 2014.10.18 23:36 最終更新 : 2014.10.18 23:40
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- 2014/10/18 23:40:40
- 2014/10/18 23:36:38
魔法少女☆胸キュン大作戦
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


 私立、麗ノ宮高等学校。
 そこに通う高校二年生の、どこにでもいそうな三人の少女たち。
 彼女たちこそ、人知れず悪と戦う魔法少女たちである!
 なんとなくアルコール臭の漂う、元剣士だと名乗るうさんくさいペンギンにスカウトされてしまた彼女たちは、日々、人類を脅かす敵と戦ているのだた。

 若さと持ち前の元気さで幾度もの戦いを乗り切てきた彼女たちは、夏休みを目前に、壁にぶち当たていた。
 魔法少女として彼女たちが活動を始めてからかれこれ三月。悪を打ち破る彼女たちのパワーが、ここ最近、伸び悩んでいたのである。
 このままでは敵に乾杯するのも時間の問題だと、酔いどれペンギンは少女たちに警告した。今後さらなる敵と戦うためには、さらなるエネルギーが必要だと。
 敵と戦う代わりに、彼女たちはなんでも一つ、願い事を叶えてもらう約束をしていた。敵が倒せなくなるのは困てしまう。
 かくして、少女たちは放課後の教室で、作戦会議を開くのだた。

 さて、と会議をスタートさせたのはメガネ少女、ミナカミだ。
「『魔法少女☆ペンギンシスターズのパワープ大作戦』会議を始めます」
 パチパチパチ、と残り二人の少女たちは拍手した。
……て、言てもね
 ボーが売りのサバサバ系少女、アキは頭の後ろで手を組んでのけぞた。
「パワーの源、『恋するエネルギー』なんでし? どうしろての? ナンパでもして彼氏作る?」
 ナ、ナンパだなんて! とふるふるしたのは四菱物産のご令嬢、世間知らずのお嬢様系少女、ハナエだ。
「不潔! 軽すぎ! 恋はもと清らかで美しくあるべきだよ!」
「そんなこと言てるからお前はハナエなんだよ」
「かくいうアキさんは、彼氏いない歴十七年ですよね?」
 ミナカミの言葉でアキは黙り込んだ。
……でも、ハナエさんの言うことにも一理あります。あの酔払いペンギンも言ていたでしう? 『恋する乙女のピアな心がエネルギーを生む』て。あんまり軽薄なことはしない方がよいかもしれませんね」
「でも、どうすんだよ。このままだと、四天王その3にやられそうだぜ?」
 ペンギンシスターズはこれまで負け知らずだたが、先週末。三人目の四天王、ガイコツ野郎に初めて敗北したのだた。
「アキさん、幼なじみの中林くんとは最近どうなんですか?」
 ミナカミの突然の質問に、アキは顔を赤くした。
「な、なんであいつのことがここで出てくるんだよ!」
 ハナエは手首にはめていた三人おそろいのリングをアキに向けた。
「あ、アキちん、若干だけど数値上がてるよ?」
「アキさんはいいですね、わかりやすくて」
「うるせー! そういうミナカミはどうなんだよ! 竹田先生と進展はねーのか?」
「独身とはいえ、先生は立派な大人ですからね。子ども扱いされないよう、私は配慮に配慮を重ねて接しているんです。すぐに好きだなどと悟らせません」
 ハナエは今度はミナカミにリングを向けた。
「うーん、ミナちんは数値上がらないな
「自分を律することに長けてますので。そういうハナエさんは、最近はどうなんですか? 先月、三組の狭間くんに告白してOKをもらていましたよね?」
「え、そうなの? なんだよお前、教えろよ! 水くさいじねーか!」
「狭間くんとはもう終わたんだ」
「おま、私に話す前に勝手に終わらせてんじねーよ!」
「今は一年生の田崎くんと付き合てるよ☆」
「なんだお前! お前の方がよぽど『不潔』じねーか!」
「あたしは清く正しいお付き合いしてるもーん」
 ミナカミはハナエにリングを向けた。
「ハナエさんもあまり数値は変わりませんね。恋愛に慣れすぎもいけないということですか」
「数値が変わたのはアキちんだけだね。ね、この際、とりあえずアキちんのパワーを上げる方法をあたしとミナカミで考えない?」
「そうですね。全員の数値を上げるより、とりあえず数値を上げやすいところから攻略した方が確実かもしれませんね」
……お前ら、人のことザコだと思てんだろ?」
「ザコだなんてとんでもない」
「それでそれで? アキちん、どうしたらキンキンする?」
「『キンキン』てお前、こ恥ずかしいこと言うなよ!」
「アキさんは、中林くんと何をしたら『キンキン』するんですか?」
「頼むから、ミナカミまで『キンキン』とか言うな」
「じあ、ほかにいい単語ありますか? 『鼓動が速くなて胸が高鳴り世界が輝いて見える心持ち』とでも表現したらよいでしうか?」
……『キンキン』でいー……
「閑話休題です。アキさん、中林くんに告白するのはどうですか?」
「な……ふられたらどーすんだよ! 魔法少女に変身すらできなくなちまうかもしれないだろ!」
「それは困りましたね」
「そんな心配いらないと思うけどなー。アキちんと中林くん、すごく仲良しじん」
「仲良しも何も、ケンカしてるだけだろ」
「遠巻きには、犬がじれ合ているようにしか見えませんよ?」
「とにかく、私とあいつはそんな雰囲気になたことなんてないんだて!」
「うわー、すごいすごい! どんどん数値上がてるよ!」
「勝手に人の戦闘数値計てんじねー!」
「でも、告白して付き合うことになたとしても。お二人の場合、ケンカを繰り返してしまいそうですね。そのたびに数値が下がてしまうのでは意味がありませんので、やはり付き合う手前くらいの状態で、アキさんの『キンキン』を最大限に高めてあげる方法を考えるのがよさそうですね」
「アキちん、チしちいなよ!」
「付き合てないのにできるか、んなこと!」
「キスですか。悪くはないですね。でも、私たちが高校生という身であることを考えると、それは最後の手段にしておいた方がよいかもしれません」
「なんで?」
「それ以上先に進むと、少々世間の視線が……一応、私たち魔法“少女”ですし……
「これ以上言うな!」
「あくまで私見ですが、キスをしてしまうと、今考えうるパワーの上限に達してしまう可能性が捨てきれません。その前に、もう少し細かく『キンキン』を稼いで段階的に数値を上げたいところです」
「手をつなぐのは?」
「初々しくていいですね。アキさん、どうですか? 中林くんの手を掴むのは?」
……腕相撲ならよくやてるけど……
「却下ですね。ハナエさん、ほかに何かありますか?」
「あとはそうだな……あ、『壁ドン』は?」
「何それ。親子丼の仲間?」
「アキさん、私たちは恋するエネルギーをパワーにしてるんですよ。少女漫画の一つくらい読んだらどうですか」
「バトル漫画の方が好きだ」
 ほら立てください、とミナカミはアキを引ぱり、壁際に立たせた。そしてアキの顔の横に手をつき、至近距離でアキを見下ろした。
「これが『壁ドン』です」
「は……
「相手を壁に追いやり、退路を断つ少女漫画の王道的手法です。このまま告白したり、キスをしたりするのもありです。相手の目を見つめて『俺以外誰も見るな』などといた歯の浮きそうなセリフを吐くのもオススメです」
「は……
「中林くんと、こういうシチエーンになるのを想像してみてください」
 アキはしばし至近距離にあるミナカミの顔を見つめ、そして顔を赤くした。
「ハナエさん、アキさんに『壁ドン』は効果がありそうです」
「ほんと? いいねいいねー。あたしも『壁ドン』されたーい。田崎くんにやて頼もうかなー
「こういうのは、付き合てもいない男性に突然やられるからよいのでは?」
「あー、そうだね。じ、あたしは無理か
……あの」
 心持ち顔を赤くしたまま、アキは二人に問いかける。
「盛り上がてるとこ悪いけど。これ、別に私らが盛り上がて、相手がその気にならなかてくれないとまたく意味がないよね?」
「大丈夫です。そこら辺は私がうまくやりますので」
「うまくやるて、どうやて?」
「それはアキさんには秘密です」
 ミナカミはにこり笑て。
「それでは、作戦会議はこれにて終了としましう」
「え、こんなんでいーのかよ!」
「おつかれさまでしたー!」


 アキが学校を出て行たのを確認して、ミナカミとハナエは校舎に戻た。そして、空き教室の掃除用具入れを明ける。
 中には、体育座りのような格好で体を丸めている中林がいた。
「ごめんなさい、手荒なことをして」
 中林は体を強ばらせたまま二人を睨むだけだた。ミナカミの拘束魔法が効いていて、体を動かすことはおろか、口を開くこともできないのだ。
 ミナカミは右手の人差し指を立て、中林を掃除用具入れから出して立たせた。
「まさか、中林くんがあたしたちの秘密を知うとはねー
 ハナエは無邪気な顔で中林を見て、かわいらしい笑みを向けた。
 先日の四天王その3との戦いの際に、中林は三人魔法少女の正体を知てしまた。
 酔いどれペンギンが中林の始末に困ていることを知たミナカミは進言した。中林を殺してしまうことは、魔法少女としてのアキを殺すことと等しい。むしろ、中林をアキのパワー強化に利用した方がいいと。
「大丈夫です。私たちの言うとおりにしてくだされば、悪いようにはしません。すべての敵を倒せれば、あなたも自由の身になります」
……俺に、何しろてんだよ」
 強がるような中林に、ハナエが笑顔で答えた。
「『壁ドン』♪」
 怪訝に眉を寄せた中林の耳元に近づき、ミナカミはささやくように命令をくだす。
「アキさんに『壁ドン』するんです。ごくごく自然に、ですよ。あ、キスはダメです。アキさんがいくらかわいくても、そこはこらえてくださいね。ちんと段階を踏んで、盛り上がてきたときに――私たちがラスボスに辿り着いた頃に、キスはお願いします」
 中林から離れ、ミナカミはメガネの奥で目を細めて笑んだ。
「じわじわアキさんを『キンキン』させて、最強の魔法少女にしてくださいね」
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