第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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白より透明なぼくとぼくのともだち
投稿時刻 : 2014.12.13 23:53
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白より透明なぼくとぼくのともだち
犬子蓮木


「ろーそくはね、キンドルて言うんだよ」
 ぼくとともだちは小学校が終わた夕方に、川原の草がいぱいのところ奥の奥、人がいないところで遊んでいた。ぼくらふたりの遊びは秘密だから誰もこないような秘密基地が必要なんだ。
 ぼくのともだちが拾てきたライターでろーそくに火をつけた。誕生日ケーキでつかうようなろーそくと違てともだちが持てきたろーそくは白くて少し太いものだた。
 とけたぶぶんがぽたぽたと地面におちる。
 ぼくのともだちはじぶんの指にたれないように傾けてもていた。
「あたかいね」
 ぼくは手を火にちかづけて言た。
「これからもとあたかくなるよ。だから服を脱いで」
 ぼくはごくんと唾をのみこんで、あつめのテツをぬいだ。
 ぼくはドキドキしている。
 さむいのになんだかあたかくなてくるような。
「背中を向けて」
 ぼくはともだちの言う通りに背中を向けた。
「たらすよ」
「え? あつい!」
 返事をまたずにぼくのともだちはぼくの背中にろーそくを垂らした。
「あついよ! やめてよ!」
 ぼくはなんどか落ちてきた奴をくらて、でも耐えられなくなて転がて逃げた。
「どうしたの? 気持ち良くない?」
 ぼくのともだちは不思議そうなかおをうかべてる。
「熱かたよ!」
「おかしいなあ。おとうさんの本ではろーそくを食らたひとがよろこぶて書いてあたのに。あ、もしかしてそういうふりをしてもと要求するてやつだね」
 そういてぼくのともだちはまたぼくの肌の上にろーそくをぽたぽたとおとした。
 逃げてもおいかけてくる。
「やめててば!」
 ぼくが本気で叫んで手をふりまわすと、ともだちはしうがないなーという顔で火を吹き消した。
「ねえ、なんでそんなにいやがるの?」
「だて熱いし」
「おかしいよ。こうすると気持ち良くなるて書いてあるんだから、それで気持ち良くならないのはなにか変なんじないかな。病気かも」
「病気……?」
「ぼく、この前、夢を見たんだ。言わなかたけどね。君が入院してる夢だた。これが予知夢だたのかな。わかる? 予知夢。実際になうのかもしれない」
 僕は病気という言葉にこわくなてしまた。
「でも、君が気持ち良くないていうのならやめるよ。これじあいじめてるみたいだし、ぼくは君が好きだから、なかよく遊びたいだけなんだ」
「やるよ……
「いいの?」
「うん……。もしかしてもうすぐ気持ち良くなるような感じだたかも」
「それじあ、また火をつけるね」
 じーとろーそくを見た。ライターで火がつく。ゆらゆらゆれている。なんであんなのが熱いんだろう。そうだ、あんなすぐ消えちうのとか溶けておちる水みたいなのが熱いておかしい。ぼくは普通なんだから、きと気持ち良くなるはずでし
 ぼくのともだちがゆくりとろーそくをぼくのおなかの上にもてきた。
 ぽた。
 ひとつぶ落ちる。
 やぱり熱い。
 逃げ出したい。
 でもこれが気持ちよくなくち病気なんだ。
 ぼくは泣きそうになた。でもそんな顔をみせたらおかしいて言われちう。
「背中もね」
 ぼくは我慢しながらひくりかえた。そうじのじかんにぞうきんがけするような姿勢で地面を見た。
「あ
 背中にぽたぽたと熱いものが落ちてるのがわかる。ぎりとくいしばた。
「きもちいい?」
「うん……
「そう。よかた。じあ病気じないよ」
 ぼくのともだちはほんとうに心配してたという声で言た。
「落ちた瞬間は熱くて痛いみたいなんだけどね、そのあとになんか変なじわとした気持ちよさがあるんだ」
 嘘だた。
 でも、熱いだけなんて言えない。
「そうなんだ。じあつぎに行てみようか」
 ぼくのともだちがふと息をふいたのが聞こえた。ろーそくの火を消したんだろう。体をもとにもどそうとしたら、ぼくのともだちが言た。
「そのままでいいよ」
「え?」
「つぎはね、バラの花束を使うんだ。束て言ても十本しか買えなかたけど高かたんだよ」
 なんだか花の匂いがするようだた。
「バラをどうするの?」
「こうするんだて」
 ぼくの背中の上に冷たいものが載せられた。それが花束だてわかた。そして、わかた瞬間に痛みが走た。ぼくのともだちがおもいきり花束を動かしたのだ。トゲでいぱいのバラの花束を。
 ぼくは声もだせなかた。
「どう気持ちいい?」
 なんとか答えようとしたけど、ダメで、ぼくは涙をこぼしてしまた。体をささえてた腕も力がはいらなくてそのまま地面に倒れてしまた。
「どうしたの気持ち良くないの? やぱり君は病気なのかな。それなら救急車呼ばないといけないかもしれない」
 救急車? そうしたらやぱり入院することになうんだろうか。ぼくは普通じない病気でお医者さんになにかされちうんだ。
「ぼくはケータイ電話持てるから救急車呼べるよ? 呼んだ方がいい?」
 ぼくのともだちは心配そうな声で聞いた。
「大丈夫だよ。ちと気持ちよくて言葉がでなかたの」
「ほんとに? 泣いてるよ。病気ならはやく治さないと」
「嬉し泣きだよ」ぼくは腕に力をいれて体を戻した。「もういかいやて」

 ぼくとともだちはあの後のも遊んで、暗くなてきたら家に帰た。背中はまだ痛い。家ではお母さんが夕飯をつくていた。
「お風呂にはいいなさい」
 ぼくは言われた通りに、服をぬいでお風呂に入ることにした。いつものように桶にお湯をくんで、体にかけた。そうしたらとてもいたくて叫んで倒れてしまた。
 お母さんが「どうしたの」とお風呂にやてくる。そして扉をあけてぼくを見て驚いた顔をしていた。

 ぼくとお母さんは放課後になてから学校にやてきた。今日は学校を休んで病院にいていた。いま、学校にきたのは、先生とそれからぼくのともだちとともだちのお母さんと話すことになていたからだ。
 全員が集まるとぼくのおかあさんがともだちのお母さんにすごく怒ていた。
 なにを言ているのかよくわからなかた。ぼくのともだちもなんで怒られているのかわかていないみたいだた。
 お母さんがぼくがいじめられていたて言ている。先生も心配そうにぼくにそう質問したけど、ぼくはいじめられていないと答えた。
 お母さんがなんで本当のこと言わないのて言うけど、ぼくはほんとうにともだちと遊んでいただけなんだ。
 ぼくは「いじめられてない!」て叫んだ。それから立ち上がて、俯いて泣いていたともだちのところに駆け寄た。ぼくはともだちの手を握る。涙でに濡れてるけど、あたたかかた。
 ぼくとぼくのともだちは、ぼくらしかともだちがいない。クラスで他にともだちがいなかた。サカーにもいれてもらえないし、ゲームもまぜてもらえない。だからぼくらはいつもふたりで遊んでいた。
 それなのに、お母さんも先生もなんでひどいことを言うんだよ。
 ぼくはともだちの手をひて教室をでた。それからふたりで廊下を走て学校からにげだした。
「秘密基地に行こう。あそこで一緒に暮らそう」
 ぼくの提案に、ぼくのともだちは泣きながら笑てくれた。
 川原の草の奥の奥。ぼくとともだちだけの秘密の場所にやてきた。
「ここなら見つからないね」ぼくは言た。
「うん」
「ごはんをどうにかしよう。最悪、どこかでとてくればいいよね」
「万引きはいけないよ」
「しうがないよ。大人が悪いんだ」
 足下には昨日のバラが散らばていた。ぐちぐちたけどまだ匂いがする。
「いい匂いだね」
「うん」
 ぼくとともだちはよりそて小さくなて話していた。

 ぼくは名前を呼ばれた気がした。女の人の声。目をひらくと目の前に先生がいた。眠てしまていたらしい。ここはぼくとともだちの秘密基地だ。なんで先生にばれたんだ。
 ともだちは?
 ぼくが周りを見回すとぼくのともだちがともだちのお母さんに怒られていた。お母さんはケータイ電話を持ている。あれでここがわかてしまたのかもしれない。さらによくまわりを見るとおまわりさんもいた。
「もうすぐ君のお母さんもくるからね」先生が言た。
 でも、そんなことはどうでもよかた。
 ぼくは怒られているともだちのところに行く。
「怒らないでください」
 ぼくはともだちのお母さんに言う。ともだちのお母さんは困たような顔をしていた。
「ぼくはいじめられてなんかいません。遊んでいただけなんです」
 先生がぼくとぼくのともだちに説明する。ぼくらのしていたことは悪いことでやてはいけないことなんだと。「火遊びだからですか? それならぼくも悪いです」
 ともだちばかりが怒られるのはおかしい。
「それもそうなんだけど。ほんとうにいじめられてたわけではないの?」先生がたずねる。
「はい……
「ほんとうのことを言てもいいんだよ」
「ほんとうのこと……?」
「うん……
 ぼくはひとつだけ隠してることがあた。だてそれを言たらぼくは病気になてしまうからだ。だから、今日、病院に言たときも「痛くないです」とお医者さんに言た。それでも、先生に本当のことを言いなさいと言われたからもう疲れて言てしまた。
「痛かたです……
「やぱりいじめられてたの?」
 ぼくは首を横に振る。そこにぼくのお母さんもやてきた。
「違うんです。ほんとうは気持ちいいほうが普通なのに、痛いのが病気だからてぼく隠してたんです」
 先生がなにもわかてないような顔をする。ぼくは秘密基地に隠してあたともだちのお父さんの本を見せて説明した。
「普通の人はこういうことをされたらよろこぶんですよね? だからぼくは病気なんです。それなのに我慢して隠してたから……
 先生がそれは違うんだよ、と説明してくれるけど、よくわからない。
 ぼくは泣き出した。
 ぼくのともだちも大きな声で泣いていた。
 ぼくはともだちに抱きついた。
「いじめないでください!」
 ともだちをこれ以上、いじめないでほしいと言た。もうなにも隠さないようにしようと思た。嫌なことは嫌て言おうて。
「ぼくらは遊んでただけです! それだけなんです!」
 ふるえてるともだちは暖かかた。とてもやわらかかた。いいにおいがした。
 真赤な空に沈んでいく夕日はアイスクリームみたいに白かた。
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