薄暗い部屋の中、私は薄紅色の可愛いアロマキャンドルに火を点けた。
　部屋はぼんやりとした明かりに包まれ、甘い香りに満たされていく。
　酷く疲れていた私はベッドに横になって、そのまま瞼を閉じた。

　気が付くと、私はあの人と一緒にレストランで料理を食べていた。
何という名前の料理かは分からないけれどもそのお肉のようなものはとても綺麗に盛り付けられていて、ナイフを入れてみると、全く力を入れずに切ることができた。そして一切れをフォークで突き刺し、口の中に運ぶと、とろけて口いっぱいに旨味が広がる。
「美味しい？」
あの人が私に聞いた。
「うん、美味しいよ」
私は答える。
「よかった」
あの人は満面に笑顔を浮かべる。相変わらず作り物みたいに綺麗な顔だった。
　あの人の隣に座っている玉のように可愛い女の子が「あたしも！あたしもおいしい！」と叫ぶ。目元の辺りが私に少しだけ似ているような気がする。
「口、汚れてるよ」
あの人は優しい声でそういうとナプキンで女の子の口元を拭ってやった。
　女の子は「ありがとう！パパ！」と言って笑う。

　私たちはあの人が付き人に用意させた黒塗りの高級車であの人の家まで帰った。
　テレビの中でしか見たことがないような大きくて豪奢な家だった。
　女の子は途中で眠ってしまったので、家に着いてからあの人が起こさないようにそっと抱えて寝室まで運んだ。
　そして私たちは体が沈み込むくらいに柔らかい大きなベッドで川の字になって眠った。

次の日の朝、私が目を覚ますと、あの人はすでにスーツに着替えて出勤しようとしている所だった。
「朝ご飯は食べて行かないの？作ろうか？」
と私が聞くと、
「メイドが作ってくれて、もう食べたよ」
とあの人は答える。
「じゃあ、あの子を幼稚園に連れて行く準備するね」
と私が言うと、
「それもメイドにやらせるから君はやらなくていいんだよ」
とあの人は言う。
「じゃあ、会社に行く準備をするよ」
と私が言うと、あの人は驚いた表情を見せてから、私を抱きしめて、
「君がそんなことする必要はないんだよ。君はただ僕の傍にいてくれるだけでいいんだ」
とあの人は言った。

　私はほとんど何にもしなかった。会社にも行かなかったし、掃除も洗濯も料理も何一つしなかった。私のすることと言えば、あの人とあの子と話すことだけだった。

「僕はね、とっても幸せだよ。君がいてくれるだけで心がとっても満たされるんだ」
心底幸せそうにあの人は言う。
「私はね、シンデレラって嫌いなんだ。だってあの子が自分でやったことって舞踏会で踊ったことだけなんだよ。それだけで幸せ幸せ、ちゃんちゃん。だなんてそんなの納得行かないの」
私は彼の瞳を真っ直ぐに覗き込みながら言った。

　そして私は目を覚ました。

　私は枕元に置いてあった、あの人にプロポーズの言葉と共にもらった薔薇の花束を手に取ると、すっかり短くなってしまったアロマキャンドルの火に近付けた。

　









　

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