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第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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祝福の花束
みお
 投稿時刻 : 2014.12.13 23:56
 字数 : 2841
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祝福の花束
みお


 私は予知夢を見ることができるのです。
 その予知夢の一番古い記憶はたぶん、生まれる前の記憶。私自身がこの世に生まれると、予知した夢です。
 私は白い部屋の中で目を覚まします。何と綺麗な、汚れの無い、美しい部屋。
 その中で目を開けると、すぐ側に背の高い男が立ています。彼は私を見て目を見開きました。そして、まるで子供のような笑顔で私を見るのです。
「ようこそ」
 この世界へ。そう言て手を広げる彼が嬉しくて、私はつられて微笑みます。彼の真似をしていれば安心だ。なぜかそう思うのです。
 私の初めて見た予知夢は、そんな夢でした。
 その夢は叶えられました。
 そして、いつまでも私の宝物として、心の奥にあるのです。

 その「心」が問題なのだ。と気付いたのは、私が誕生して一年後のことでした。
 私は心を持てはならない生き物だというのです。生き物であるかどうかも怪しい。ロボトという、人とは異なる生き物なのだ。と、白衣の男はいいにくそうに言うのです。
 私は生まれてこのかた、白い部屋で過ごしていました。そこに毎日彼はやてきて、私に本を与えてくれるのです。おかげで、私は随分世界に詳しくなりました。
 そんな風に、真白な部屋で過ごす私を見つめる彼の目は、日々変わていきました。最初は優しかた目が、苦悩する目となり、やがて私を見るたびに瞳に水滴が浮かぶようになていました。
 触れると、暖かい。暖かい液体です。
 私は彼の真似が得意です。でも、これだけは真似をしたくても、なぜか真似ができないのです。彼の目が濡れると私の心は乱れるのです。痛みを感じる器官なんて無いはずなのに、痛むのです。
 その水滴を手に受けて、指で自分の頬に付けてみても、痛みはなくなりません。何度も目と頬を指でなぞると、彼は私を抱きしめて叫びました。
「心を持つロボトを、世界は受け入れなかた!」
 男は声を限りに叫ぶのです。
「人が人を作てはならないそうだ。生まれたお前は化け物だと」
 ハイキしろとそう言われた。
 と、震える声でそう言います。ハイキという言葉の意味は分からないけれど、悲しいことが起きているのだとそう思いました。
「おいで。お前が生まれてちうど一年だ。最後に、誕生日会をしよう」
 男は私を軽々と抱き上げると、白い部屋を出ます。この部屋を出るのは、生まれてはじめて。何が見えるのか、何があるのか。目を丸くする私の顔を、彼は手でそと覆います。
「少し目を閉じて」
 私に温度を感じる機能はありません。彼の手が熱いのか冷たいのかも分からず、ただ暗闇。それがそと解かれたのは、数分後のことです。
……わあ」
 目の前には、赤がありました。ただ、ただ、見渡す限りの赤!
 部屋一面、全て赤い花で彩られているのです。それは大量の花束。真赤な花の、花束。それが敷き詰められて、まるで図鑑でみた花畑のよう。
 その真ん中に、大きな金属片がおかれています。その上に、赤いキンドルが1本。
「お前はケーキなんて食べられないからな。お前を作た時に、余た金属の固まりでケーキの形にした……まあ、形が悪いが」
 それは図鑑や本でみる、ケーキとは似て異なる物質でした。まるで丸木のような不格好な金属の塊。でも、キンドルの明かりがゆらゆらゆれて、とても綺麗。
 そと撫でると、金属の隅がポロリと取れました。ちうど小さく輪になた取手のような場所です。慌てて拾い上げると、彼は何か思いついたように、にやりと笑うのです。
「ああ、そこは細いから……まてよ」
 ほら。と彼はいて私の指にその輪を通します。それはまるで誂えたように、ぴたりと指におさまるのです。
「誕生日プレゼント」
……嬉しい」
 それが何であるかなんて、私には分かりません。ただ彼が、嬉しそうであることが私には嬉しい。指を抱きしめるように、胸に当てて私は微笑みます。
 ……と、彼の顔がまたくしりと歪み、目に水滴が浮かびます。しかし、今度はその水滴を零しません。
 ただ、力強く立ち上がただけです。彼の動きにキンドルの明かりは消えて、そして花弁が舞いました。
「逃げよう」
 彼ははきりと、そう言いました。
「誰がお前をハイキなどするものか。そうだ、逃げれば良い、何故思いつかなかたのだろう」
 彼は顔を赤く染めて、白衣を脱ぎ捨てます。そして部屋から駆け出し、しばらくして戻て来たときには手に大きな鞄を二つ。
 それとツバの広い、大きな帽子と真白なコートを持て私の前に立ちました。
「似合うよ」
 コートと帽子を私にかぶせると、彼は私の手を取ります。
「さあ、逃げるぞ」
「私のせいで?」
「お前のせい? 俺のせい? まさか。馬鹿な世界が悪いのだ。神などくそくらえ、神が許さないというのなら、俺が神になればいい。俺がお前を許せば良い」
 彼は明るい声でこの空気を笑い飛ばします。空気だけではありません。先ほどまでの不安な色を、全て吹き飛ばし、白い部屋の色も、赤い花の色も全て吹き飛ばす。そんな笑いです。
「でも……
「不安か。じあ、契約を交わそう、俺は必ずお前を守るとな……いや、まて、お前。では不便だな」
 名前を付けよう。と彼は呟きました。そして悩む暇も無く私の顔を覗き込み、言うのです。
「望子と、そうしよう。そうだ、それがいい」
……望子……
 不思議な感覚でした。私に、名前が与えられた。足下が、おぼつかないほどの、不思議な感覚。ふわふわと雲の間を歩くよう。
……期限はありますか」
「さすがロボトは細かい……そうだな、なら、壊れるまでだ」
 彼の足はすでにかけ出しつつあります。手を引かれている私もつられて早足になります。飛び出した先は、真暗な外の世界。暗闇の中を、白い固まりが降ています。
 これが雪というのだ。私は図鑑でしかしらないその存在を見上げて、笑いました。
 ここは、外だ。外の世界なのだ。間違い無い。そうです。私は昨日、夢を見ました。夢の中でも確かに、こんな風に雪が降ていました。
「昨日、夢を見ました」
 走りながら私は必死に彼に話しかけます。
 振り返た彼の口からは白い息。私からは出ないけれど、それも夢の中の風景と同じ。
「どんな夢だた」
「あなたが年老いて、私は所々壊れかけていて」
 夢の中の私達は、すかりぼろぼろです。しかし悲しい感じはないのです。どこまでも幸せな夢なのです。
「でも一緒に、家の掃除をしているのです」
「予知夢だ」
 はは。と、彼は天に向かて笑います。
「行こう急ごう」
 走る二人の向こうに見える、明るい一本の光。
 やあ、汽車の時間に間に合うぞ。彼はそういて、速度を上げます。私も必死に駈けます。
「未来は明るい」
 彼はとうとう私を抱き上げて、駆け出しました。
 抱えられたまま振り返ると、積もた雪の大地に、赤い花弁が何枚も落ちています。
 まるで私達を祝福するように、どこまでもどこまでも花弁は雪の野に続くのです。
 彼はかつて、神などない。そう、言いました。
 しかしそれは、まるで神より捧げられた祝福の花束のように、私達の道を明るく染めているのです。
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