てきすとぽい
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第29回 てきすとぽい杯
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クラス委員長・高平さんの奮闘とおみあし
(
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
)
投稿時刻 : 2015.10.17 23:36
最終更新 : 2015.10.17 23:43
字数 : 1945
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2015/10/17 23:43:07
-
2015/10/17 23:36:32
クラス委員長・高平さんの奮闘とおみあし
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
うちのクラスには、水澤という問題児がいる。
彼はまだ十六歳だというのに、ハンプテ
ィ
・ダンプテ
ィ
を絵本の中から引
っ
張り出してきたようなずんぐりむ
っ
くりの卵形の体型をしていた。「水澤
っ
てハンプテ
ィ
・ダンプテ
ィ
みたいじ
ゃ
ない?」
っ
て何かの機会にクラスメイトの飯沼さんに言
っ
てみたら、「ハンプテ
ィ
・ダンプテ
ィ
っ
て何?」
っ
ていうある意味予想どおりの返しだ
っ
た。ま
ぁ
、クラス委員長だし? マザー
グー
スに出てくるキ
ャ
ラクター
だ
っ
てことくらい教えてあげましたとも。
水澤に話を戻そう。
水澤は、別に悪ぶ
っ
ているようなタイプではない。なんた
っ
て、ハンプテ
ィ
・ダンプテ
ィ
だし。だけど、遅刻は多いし、授業はサボるし、説教されてもどこ吹く風で、とにかく態度がふてぶてしい。私もこれまでに何度説教をしたことだろう。指を折
っ
て数えてみる。五回や十回じ
ゃ
足りない。プリントの提出期限を守らないとか、委員会の会議サボ
っ
たとか、そんな細々した内容だ
っ
たとは思うけど。
例えば、こんな具合。
「ち
ゃ
んと掃除してください」
私は凜として、掃除当番をサボろうとする水澤の前に立ちはだか
っ
た。クラス委員長じ
ゃ
なか
っ
たら絶対にこんなことしないけど、今のところ私はクラス委員長なので堂々とそれをや
っ
てのけた。
水澤は不思議なものでも見るみたいに私を見下ろして、た
っ
ぷり五秒くらい経
っ
てから回れ右した。別のドアからそそくさと教室を出て行く。また逃げられた。
「高平さん、がんばるねー
」
なんて静観していたほかの掃除当番の女子たちは素直に感心する。
「水澤くん
っ
て体大きいし怖そうだし」「よく言えるね」「さすがクラス委員長」
ま
ぁ
、褒め称えられるのは悪くない。
ちなみに、体もでかいしふてぶてしいヤツではあるけど、私は水澤に対して「怖い」という感情は抱いていない。
実は、今のクラスにな
っ
てすぐ、高校のそばにある河川敷で、水澤が段ボー
ル箱に捨てられていた子猫をかま
っ
ているのを見たことがあ
っ
た。水澤=問題児、という先入観から、からか
っ
ていじめてるのかと思
っ
て、ヤなヤツだなと勝手に思
っ
た。そしてその数日後、私は再びその河川敷で水澤を目撃した。
水澤は、ずんぐりむ
っ
くりの体を丸めてうなだれていた。子猫が死んでしま
っ
たらしか
っ
た。子猫の死に水澤があんなにも打ちのめされるだなんて思
っ
てもみなくて、私は密かに反省などさせられてしま
っ
た。クラス委員長のくせに、偏見の目でクラスメイトを見てしまうだなんて失格だ。
私は誓
っ
た。水澤にも、他のクラスメイト同様、誠実に向き合おうと。
こうして、先生すらさじを投げ気味の水澤に、私はしつこく小言を言い続けた。クラス委員長をなめるなよ
――
そんな攻防を続けた六月、朝からじとじとした雨の日のことだ
っ
た。
朝は常に一番に教室に来る私は、その日も気合い充分で登校した。ら、学校のすぐそばで車に水をかけられた。幸いなことに制服の被害はほとんどなか
っ
たけど、左足がさんざんなことにな
っ
た。膝から下がび
っ
し
ょ
びし
ょ
。
ぐず濡れのまま上履きを履くのもはばかられ、昇降口の脇の洗い場で靴下を脱いで足を冷たい水で洗
っ
た。泥水や砂が落ち、白くてつる
っ
とした自分の生足にち
ょ
っ
とう
っ
とりする。
私の密やかな自慢が、このつるんとした生足だ
っ
た。
従姉妹のお姉さんが脱毛サロンで働いていて、高校に推薦入試で受か
っ
たときのお祝いで脱毛してもら
っ
た。毎日ロー
シ
ョ
ンもし
っ
かり塗り込んでるし、日焼けにも気をつけてる。適度に歩いてたるんだりしないようにとも思
っ
てる。もちろん、足指の爪の形だ
っ
てキレイに整えてる。制服のスカー
トを短くしたり、髪を染めたり
っ
て自己表現するのもいいかもしれないけどさ。こういういつもは見えない部分にこそ、気を遣
っ
てみるのもいいんじ
ゃ
ないか
っ
て控えめな私は思うわけ。す
っ
ぴん美人みたいな?
なんて、自分の足の美しさにう
っ
とりしすぎてて油断していたのは、この高平亜季、一生の不覚である。
「ストリ
ッ
プシ
ョ
ー
の真似?」
足先の水を払うために、私は白い膝を上げたところだ
っ
た。
「面白か
っ
たからさ
っ
きから見てたんだけど。自分の足、ホントに好きなんだね」
私の背後に立
っ
ているのはハンプテ
ィ
・ダンプテ
ィ
、じ
ゃ
なくて水澤だ
っ
た。
私と水澤の応酬は、一学期が終わろうとする七月にな
っ
ても続いている。
が。
「足」
水澤は、私が小言を口にすると、ひと言そう返すようにな
っ
た。そして笑
っ
て去
っ
ていく。
クラスメイトたちはまだ気づいてない。彼が「足」と呟いていることも、その理由も。気づかれる前になんとかしたい。私の生足は自慢だけど堂々と自慢したいものじ
ゃ
ないのだ。
夏休みまでに形勢逆転できないかと思いつつ、有効な手立てを何も思いつけないまま、私は彼との攻防をまだまだ続けないといけないらしい。
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