初! 作者名非公開イベント2016秋
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アメノヒ
投稿時刻 : 2016.08.10 10:37 最終更新 : 2016.08.21 19:12
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アメノヒ
伊守 梟(冬雨)


 カーテンを閉め切て、私はベドの中で丸くなている。積み重ねてきた思い出と数々の失敗がフラクして、私は憂鬱になる。あれから彼は連絡をしてこない。私だて「絶対に連絡してやるもんか」と思ている。お互いに意地張りで頑固だから、ちとした喧嘩がやたら長引く。
 もう喧嘩の原因なんて忘れてしまた。彼のスマートフンに聞いたことのない名前の女の子から電話があたことだけ。それは先月の喧嘩の原因だたかな。とにかくまあ、そんな感じだ。
 幼いころ、私は雨が好きだた。保育園から小学校の低学年くらいだろうか。傘をさすことや合羽を着ることがなんだか特別なことのような気がして、私は雨の日を待ち望んでいた。でも今は言わずもがなだ。
 窓の向こうでは、雨がバルコニーを濡らしている。ベドの中で頭から布団をかぶていてもその音が聞こえてくるくらいだ。降水量なんて数字はよくわからないけれど、とにかく大雨に違いない。

 枕元にある私のスマートフンはうんともすんともいわない。彼から連絡がなければこんなものだ。もともと友だちは少なかたし、家族とは絶縁状態といても過言じない。もう三年、連絡をしてないし、連絡もこない。
 友人であれ、家族であれ、利害を排除して良好な人間関係を構築することは極めて難しい、と私は思ている。脳の仕組みがそのようにできているのか、あるいは細胞レベルでの話なのかはわからないけれど、そういう摂理の上で私たちは生きていると考えたほうがしくりくることが多い。
 彼との交際も単純に「好き」というだけで片づけられない、と思う。恋愛感情とはそれほど関係のないところで私は彼にさまざまなものを求めている。期待している、といたほうがより正確かもしれない。

 雨はいつまでたても降りやまなかた。空の上でどこかの星の巨人が地球に向かて巨大な如雨露を傾け続けているんじないかと思えるくらいだた。どこかの学者が「近い将来、陸地がすべて海に浸食されてしまうかもしれない」などとまことしやかに語たら、私は盲目的にその臆説を信じてしまうだろう。
 私は眠ることも布団から出ることもできなかた。少しでも動くと、動いた分だけ体のパーツがずれて私という個体が脆く壊れてしまうんじないかと思た。雨が降ていることはわかても、雨粒の大きさや、重くたれこめた雲や、黒く濡れたアスフルトがこの眼に映ることはなかた。
 私はまだベドの中で小さく丸くなている。
 求めるからぶつかるのだ、と私は思た。でも、相手に何も求めない恋愛なんてあるはずがない。「与え続けるのが愛」だと誰かが歌ていたけれど、そんなものの存在を肯定してしまたらいたい私は何を支えにして彼とつきあえばいいのだろう。
 まだわからないだけのか、このままわからないままなのか、答えはなかた。今の私は今の私の基準で生きるほかないのだ。

 不意にスマートフンのメセージ着信音が鳴た。雨音にまじてその音は少しくぐもて聞こえた。
 私は右手を伸ばしてそのスマートフンを掴んだ。俄に鼓動が早くなたけれど、私のからだはバラバラになることなく、ひとつの個体として生命活動を続けていた。布団の中にそれを引張り込んで画面を見ると、緑にほど近い黄緑色にデザインされた液晶デスプレイには覚えのない名前と悪気のない笑顔を見せる知らない女の子の写真が表示されていた。
『電話番号で新しく友だちに登録されました』
 そのメセージを見ながら、無意識のうちに私は静かな笑みを浮かべていた。
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