予告・・・前もって知らせること。前触れ。(大辞林)
こんなCMをテレビでや
っていた。
「……ああ、気付いてくださったのですね。
それなら良かった。
どうしても、伝えたいことがあるんです」
全米が震撼したサスペンスホラー。
疑心はいずれ破滅を呼ぶ。
「あなたは、今見たものを信じますか?
今までの人生を信じますか?」
何気ない日常に隠された罠。
脅かされる平穏。忍び寄る悪夢の影。
隣家の扉は固く閉ざされ、街には祈りが降り注ぐ。
「私を、信じてくれますか?」
止まらない血の洗礼。
狂気は伝染する。
逃れられない因業の渦に、聖なる乙女は涙する。
「危険が待ち受けています」
巨匠も絶賛。誰も予測できないストーリー。
あなたはこの惨劇に耐えられるか?
「私の声、聞こえていますか?
私はあなたを救いたいのです。
滅びの運命から救い出したいのです」
──「いつかあなたを救うまで。」
近日、劇場にて公開。
「どうか答えてください。
あなたは映画に行ってはいけません。絶対にです。隣の人物を信じてはいけません。彼はいつかあなたを裏切ります。
私を信じて。
あなたを救うまで私は諦めません」
誰を信じますか?何を信じますか?
真相は映画館にて。
「このことは、誰にも言わないで。
お願いします。
あなたを救うためです」
映像の最中、本編とは関係のない音声が流れる現象が報告されています。
不審な音声を聞かれた方は、テレビ局までご一報ください。
……と、そんなテロップが流れて、CMは終わった。
「そんなことあるんだ。ミスかな」
隣で、弟が呟く。
映像の合間に聞こえていた声を思い返す。
美しく、透き通るようでいて、脳髄に染み渡る……そんな声。
「新作映画かぁ……兄ちゃん、興味ある?」
唾を飲んだ。
いつも、気になる新作映画は兄弟で見に行くと決めている。
「いや……俺は、別に……」
弟は怪訝そうに眉をひそめ、「……そう」と言った。
「いつか裏切る」という言葉が、頭の中で反響して、離れない。
俺達は何の変哲もない兄弟だ。今まで程々に仲良くやってきたし、問題もなかった。……そのはずだ。
でも、確か昨日……
胸の中で、ぼんやりと何かが燻っていくのを感じた。
***
「いや……俺は、別に……」
兄は、妙に気まずそうにそう言った。
CMのセリフ……甘くて優しい、包み込むような声が、なぜか気になる。浮いてたからかな。
「私だけがあなたの味方です。いいですか?隣人はあなたを欺こうとしています。絶対に目を離さないで」
……か。……CMの内容……だよね……?
***
何を信じますか?