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空からしんしんと雪の降る朝、酒場を閉めた店主の男は、早足である女の元へと向かう。
「あら……? あなた、主人の……。どうなさったの?」
「これ……いつの間にやらカウンターに置いてあったんでさ」
メモ用の紙を差し出す。……そこには、赤黒い文字でこう記されていた。
『ツケの金は幽霊にすっかり取られちまった。……だけど、俺ァいい時間を過ごせたぜ。……生きてる間も、死んでからもだ。元気で暮らせよ。嫁さんと息子も任せたぜ!』
かつてと何も変わらない乱雑な筆跡に、女の泣き腫らした目元にも笑みが宿る。
「……まあ、あの人……ツケを貯めていらしたの?」
「ツケっつったって、大した額じゃねぇでさ。いつもまとまった金が入ったら気前よく払ってくれるんで、いい客でもあったんですから……。……息子さんは寝てるんですかい?」
「ええ……泣き疲れてしまったみたいで。……でも、突然の事故なのに満足して死ぬなんて、ほんとうに能天気な人だこと」
ちらりと女が向けた視線の先には、永久の眠りについた男の亡骸が棺桶に横たわっている。
どこか安らかで、満足げにも思える死に顔は、笑っているようにも見えた。
「……アッディーオ、ジョルジョ」
男の名と挨拶を告げ、少年はひらひら手を振って立ち去っていく。
次の遊び相手も気のいい奴で頼むぜ……と、少年は願掛けのようにコインを空高く放り投げた。
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