第52回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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白井権八という刑
投稿時刻 : 2019.08.18 10:24 最終更新 : 2019.08.18 11:58
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- 2019/08/18 11:58:07
- 2019/08/18 11:47:21
- 2019/08/18 10:24:48
白井権八という刑
コユキ キミ


「お前の刑は『白井権八』である」
 重々しく、宣言されたが、しらいごんぱち? なんのこである。
 タイムトラベラーが受ける刑罰は、歴史を補修する刑である。
 カジアルにタイムトラベルをする現在、歴史の改変は重罪だが、信長の兜に、「お前は、本能寺の変で死ぬ」などと落書きする輩があとをたたない。歴史犯罪には、歴史の穴埋めをする刑が課せられる。重罪の場合、自分の時間をつかて歴史上の人物を演じ切ることになる。
 俺は、軍用プラスチク爆薬で、村一つを壊滅させた。「俺の村が焼けた」と、SNSに投稿したところで逮捕された。聞けば、何人もの歴史犯罪者を村人として、送り込んでいるらしい。俺の予想では、そこで一番長寿かつ、ひどい人生を送た者の穴埋めをするのかと思ていた。村一つ焼いて、一人の人生を演じる。得した気分。と思ていたけれど、なんか予想とは斜め上の展開のようだ。
 俺の頭のなかに、白井権八のデータが送り込まれてくる。
「待て」
 最初から、俺はつまずいた。
「平井権八だと」
「本名は、平井権八だ。白井権八は、『御存鈴森』の登場人物だ」
 執行官は、大まじめだが、冗談にしか聞こえない。わからないまま、データを追い続ける。
 ちと待て、矛盾だらけだ。
「1655年生まれで、1655年に幡随院長兵衛と出会て、義兄弟の盃をかわすてムリムリ。0歳だよ」
「その時は、18歳の水も滴る美少年なんだ」
 この執行員、頭おかしいんじねーか?
「そもそも白井権八て、歌舞伎とか映画の登場人物だよね。幡随院長兵衛と出会たら面白いてことで適当に作られた話だよね。史実じねーよ」
「なにが史実であるかは、たいした問題ではない。最近の通説では、白井権八はドラキラで、18歳の姿で忽然として歴史上にあらわれ、25年間美しい姿のままで、130人もの人を殺し、金品を奪い、幡随院長兵衛と愛し合い、鈴森の刑場で死ぬんだ」
「そんな無茶な」
「現状では、それが史実とされている。18歳の美しい姿を保つために、2年ごとに呼び寄せて調整する。内臓に負担がかかるだろうが、25年くらいはもつだろう」
「なにが歴史上の人物かわかんねーよ。歴史じねーよ」
「歴史など、もはや修復もしようもないほど、ぐちぐちなのだよ。そろそろ、頭がぼーとし始めたか? 大丈夫。頭の中に落とし込んだ、データの通りにやればいい。そろそろ刑の執行が始まる。白井権八という刑の」
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