第53回 てきすとぽい杯
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神代の山へ登るわけ
投稿時刻 : 2019.10.19 23:30
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神代の山へ登るわけ
バルバルサン


 山には、神様が住んでいるという。
 俺がガキの頃は、高い山には神様が住んでいるとよく言われた。
 だから、俺は登るんだ。神にさらわれた、妻を助けに行くために。



 俺の名前は、ログ・ホーズネス。探検家だ。世界の様々な秘境と呼ばれる場所に足を運び、その場所で見た事、判たことをもとに本を書く。それが俺の仕事。
 そんな俺には妻がいた。名前はセリーナ。とても器量が良く、優しく、それでいて、強い女性だた。
 彼女も俺と同じ探検家で、女なのに探検家なんてしている何て変わた奴だなというのが第一印象だた。
 だが、彼女の真摯な冒険に対する情熱に、俺は惹かれていき、そして、深い森の秘境。そこにある神殿で、古式にのとり結婚式を挙げた。
 とても、幸せな時間だた。今でも、目を瞑れば思い出せる。
 彼女と眠た石の山で見た、不思議な石ボタルという虫の光。
 極北の世界で身を寄せ合ている時に見た、雄大なオーロラ。
 樹海で毒虫に刺された俺を、眠りもせずに看病してくれたこと……
 全て、大切な思い出だ。
 だが、そんな彼女は、今はいない。世界最高峰の山。『神代の雪山』と呼ばれる山に登山に行きり、戻てこない。
 俺は、その時別の雪山に上ていた。彼女と同時に、二つの山を制覇するという企画のためであたが、彼女についていかなかたことに、深く後悔した。
 後悔と共に、両目から溢れてくる涙。その味を、俺は忘れたことは無い。
 しかも、彼女が消えた後、山は不思議なブリザードで覆われる季節になり、救援にもいけない。
 俺は、一人でも行こうとした。だが、周囲に必死に引き止められ、登山は断念することになた。
 そして、ブリザードの止む季節に、『神代の雪山』へと登て行た。
 だが、見付けられたのは彼女のキンプの痕跡だけ。彼女の姿は、無かた。
 俺は、山を隅々まで調べようとした。だが、登山にも届け出がいるし、山にいられる期間も決まている。
 しかも、またブリザードの吹き荒れる季節が近づいていた。
 法律と、季節の壁。それが俺と彼女を、大きく引きはがした。
 山の麓の部族の話だと。この山は、女性禁制だという。女性が昇ると、神が嫁にしてしまうと。
 ふざけるな。
 彼女は俺の妻だ。神だろうが悪魔だろうが、俺の妻に手を出して、許してなるものか!
 そう憤る俺を、あくまで迷信だと周囲は抑えたが。
 実際、彼女は見つからなかた。セリー……



 そして今、俺は秘密裏に『神代の雪山』に登山する準備をしている。
 法律?そんなもの、知たことか。彼女の、せめて死体でも持て帰てこれれば、どんな裁きでも受けよう。
 季節?そんなもの、なんてことはない。俺は、探検家だ。ブリザード吹き荒れる山よりも、危険な山を登た事だてある。
 だから、待ていてくれ。セリーナ。お前を、今探しに行くからな。



 雪山の状態は最悪も最悪だた。吹き荒れるブリザードの風圧。高山特有の気圧の変化、世界を覆う真白な雪の壁。全てが、俺とセリーナの間を邪魔する。まるで、俺を山から排除しようというかのようだ。
 だが、俺は今まで培てきた探検の知識を、鍛えた肉体を、そして、セリーナへの気持ちを総動員し、山を登る。
 少し、登山で決められたルートから外れた道を歩いてみる。セリーナは、通常の登山ルートにはいなかた。
 なら、どこかに転落したのかもしれないし、ルートを外れてしまた可能性もある。
 そう思いながら、雪の険しい道を歩いていると……

ズボ!

 そう、雪が積み重なてできた、クレパスに、足を取られ、その谷間へと落下した。
 俺の思考は、彼女との思い出がフラクした後、停止した……


 ふわり、ふわり……
 俺は、どこかを漂ている。
 どこだろう、ここは。さきまで、俺は雪山を登ていたのに。
 意識がぼんやりとしているが、ここはどこかの山であると、なんだか『判た』。
 俺は、ゆくりと山を登ろうとする。足が、自然と動くのだ。
 山頂には、まぶしい光。そこに、一歩、一歩近づいていく。
 そこに、声がかかた。

「待ちな。ログ・ホーズネスだな」

 そう声を掛けたのは、一人の青年。
 なぜ俺の名を知ている。
 そう声をかけると、動いていた足が止また。

「あんたに、預かりものがある。ほらよ」

 そう言て手渡されたのは、一本のピケルだた。だが、それは間違いなく……
 セリーナのものだた。俺は驚き、青年を見る。

「奥さん、言てたぜ。「私の夫は感情的だから。きと無茶をして、ここに来るかもしれない。だから、その時はこれを渡して」てな」

 どういうことだ。なぜセリーナを知てる。セリーナはこの先にいるのか?

「あ。先にいるが……行かせられない」

 なぜ!

「あんたは、今。現世の物を受け取た。現世のものは、あちの世界に持ていけない」

 その青年が説明してくれた話は、こうだた。
 セリーナは、登山中、俺と同じように、事故によて生死をさまよたらしい。
 その時、この山の神があちらの世界に連れて行たと。
 だが、セリーナは、俺にはまだこちに来てほしくないらしい。
 何故なら……

「あんたは、まだ世界全てを探検しつくしてないんだろ? 」

 そう、俺が口にしていた、世界全てを探検しつくす夢。それを達成してから、来てほしいらしい。
 その言葉に。はら、はら……と、両目から、涙のような光が流れる。

「さ、あんたは戻りな」

 まてくれ、あなたは、一体?

「俺か?俺は……あんたらが結納した、神殿の神だよ。せめて、あんたらに子供でも授けてやりたかたんだがね。ま。これも何かの運命。生きろよ、人間。二度目はないからな。奥さんの願い、裏切るんじないぞ」

 そう言われると、意識が、光から離れてい……



 俺が目を覚ますと、ふもとの病院だた。周囲には、探検の仲間たち。
 皆、心配そうにしていて、俺が起きると寄てきて、口々に心配したと声をかけてきた。
 俺は謝罪すると、手に違和感を感じる。
 そして、手に握ていたのは、妻の、ピケル。
 驚く俺に、探検仲間が。

「奥さんの遺品、何とか手に入れられてよかたな」

 と言てきた。
 さて、この後、俺は政府からこてり絞られるのだろう。だが、そんな事はどうでもよかた。
 今は、妻のピケルを握りしめ。

「次に会う時は、世界を探検しつくした後だ。お前が、あちの世界を探検し切る前に達成してやろからな」

 なんて、呟こうか……
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