クリスマスイヴぼっち小説大賞&ぼっちついのべ
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真っ赤に染まったシングルベル
投稿時刻 : 2013.12.24 23:22 最終更新 : 2013.12.25 00:36
字数 : 3639
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目次
1. ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪
2. 友情に免じてちょっと付き合ってくれと、電話越しにアンジーに頼まれた。午後五時過ぎ、外はすっかり暗
3. 「別れたい」
4. 「無茶言わないでよ!」
5. 頭全体が熱を持っていて、ぐわんぐわんとひどい頭痛がした。
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更新履歴
- 2013/12/25 00:36:27
- 2013/12/25 00:19:15
- 2013/12/24 23:22:37
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真っ赤に染まったシングルベル
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


 ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪
 なんてよく知られた歌詞があるわけだけど、これ、「ジ」の濁点を取ると、なんとも言えないしぱい響きの歌になる。
 シングルベル、シングルベル、鈴が鳴る♪
『シングルベル』てなんだよて突込みは置いておいて。『シングル』という単語に漂うそこはかとない哀愁に、街のイルミネーンは歪んでしまいそうだ。
 そういえば、クリスマスはどうせボチですよー、なんて言た私に、じあシングルベルだなー、と笑たのは彼だたか。
 少なくとも。先月の時点では、こんなシングルベルのはずじなかたのに。
 サンタクロースの衣装よろしく真赤に染また両手を見て。どこで間違えたんだろう、なんて私は立ち尽くす。
2 / 5
 友情に免じてちと付き合てくれと、電話越しにアンジーに頼まれた。午後五時過ぎ、外はすかり暗くなていた。
「お前にしかこんなこと頼めないし」
 飲み仲間でDJ仲間のアンジーに対して私が抱いていた感情は友情ではなかたのだけれど、それでも私は少なからず嬉しくて、即刻OKした。
 だて、今日は十二月二十四日。キリスト教徒なんて人口全体の数パーセントだろうに、世の中は無駄に浮き足立ち、恋人たちがキウフフと我がもの顔で街を闊歩するせいで私みたいなボチ野郎は肩身の狭い思いをしないといけないクリスマス・イブ。
 そんな日に、こちらは憎からず思ているアンジーから呼び出されたのだ。そり、コージーコーナーで買たシトケーキはとりあえず冷蔵庫にしまて駆けつけるというもの。しかも、アンジーが指定してきたのは彼のマンシンだ。
 会たことはなかたけど、アンジーに彼女がいるのは知ていた。ので、もしかして、喧嘩して彼女が出ていてしまて、寂しいから来てくれ、だたりして。
 常にボーな私らしからぬスカートなど履いてみて、こんなんじアンジーに笑われるかもしれないななんて思てズボンに履き替え、いつものスカジンを羽織てバタバタして家を出たのはアンジーから電話があた四十分後だた。新宿と新大久保の間くらいにある彼の家までは、うちから電車と徒歩で三十分ほど。
 気持ちばかりがせいて、二十五分で彼のマンシンに着いてしまた。インターンを鳴らすと、「井岡か?」と彼の声がした。井岡佑香こと私は嬉々としつつも「しうがねーから来てやたよ」なんて答え、ドアが開くのを待た。
 アンジーはなんだか顔色が悪かた。本当に彼女にフられたのかもしれない。
「イブにどうしたさ?」
「一人か?」
 私が二人でくるわけなどないのに、アンジーは挨拶もなしにそんなことを訊いてきた。当たり前じん、なんて答えた私は、そのわずか一分後、彼の言葉の真意を知ることになる。
 八畳ほどの部屋。その中央に、髪の長い女がうつ伏せに倒れていた。
 もしもーし、そんなところで寝たら寒いですよー、あ、もしかして彼女さんですか、初めましてー、なんて声をかける必要はなかた。
 ベー色のカートに、じんわりと赤い染みが広がている。
「お前とこの女が喧嘩になて、それを俺が助けようとしたらこの女が勝手に転んで頭打た。そういうことにしてくんね?」
 クリスマス・イブに彼氏でもない男に呼びだされても、のこのこ行くもんじない。
3 / 5
「別れたい」
 目を覚ましたのは午後二時過ぎだた。でもて起きた早々、そう宣告された。
 その瞬間、俺が思たことは二つだ。
 人の家で一晩明かしたあとに言うな。
 でもて何よりも、もと早く言え。こんな日に――クリスマス・イブなんかにわざわざ言うな。
「昨日の今日でそれはないんじないの?」
 ソフドに敷きぱなしの煎餅布団から裸の上半身を出したままタバコをふかしつつ、ささと身支度を整えた美咲を見上げた。
 長くてますぐな黒髪。大きな目。長いまつ毛。目鼻立ちのはきりした意志の強そうな顔。初めて出会たのは、新宿歌舞伎町の一角にある薄暗い飲み屋。心もとない照明の下でもその顔は強烈な印象を俺の中に刻んだ。いかにも扱いにくそうなところもまた、好みだた。井岡佑香みたいな、従順な忠犬タイプではない。素気ない猫みたいな女。毛並みのいい、すとした手足が細い黒猫。
「理由は?」
 すと伸びてきたその手に、くわえていたタバコを取られた。まだ半分以上残ていたタバコは、テーブルの上の吸い殻ですでにいぱいの灰皿に押しつけられる。
「こういうところ」
 じあね。俺には美咲の言いたいことも言ていることも何一つも理解できないのだが、言うだけ言たという態で美咲は部屋を出ていこうとする。勝手な奴。でもそれはお互いさまという気もしてきて。
 だたら、こちも勝手にするだけの話。
――待てよ!」
 布団を跳ねのけ、その細い腕を思い切り掴んだ。やめてよ、とかなんとか言て彼女が身を捩る。が、仮にも男である俺がそんなか弱い力に負けるわけがない。自分の力を誇示するように、美咲を引き寄せるつもりで俺はその腕を引いた。
 美咲の体が床を滑たのと、テーブルがごつと鈍い音を立てたのと、灰皿の吸い殻が宙を待て辺りに散らばたのは同時だた。少し遅れて、ガシンと派手な音を立てて百円シプで買た白いお皿が割れる。あ、そういや昨日の夜、一日早いけどケーキ食べたんだ――なんて、ぼんやりと思い出した。
4 / 5
「無茶言わないでよ!」
 私の言葉に、だがアンジーは一切たじろがなかた。
「じ、お前、警察に通報すんの?」
 私は何も関係ないのに。どうしてアンジーの方が偉そうなんだろう。
 アンジーはいつもいつもそうだ。
 いつもみんなの輪の中心にいて、快活で、豪快で、偉そうで。寄てくる女は絶えない。けど、私のことは『相棒だ』と言て何かとそばに置いてくれた。俺ら男友だちみたいなものだし、なんて言われて、そうそう、と私も頷いた。でもきとアンジーは気づいている、私がそうは思ていないこと。だから私の話なんていつもろくに聞いてくれない。それでも私を邪見にしないのは、きと都合がいいからだ。いると便利だから。使いぱしりにもできる。ちとお金を借りることもできる。
 殺人のあと処理を頼むことも。
「頼むよ。頼れんの、お前しかいないし」
 偉そうと思たら、今度は情けない声を出す。
「協力してくれんなら、俺」
 本能的に悟た。この続きは聞いちいけない。聞いちいけないと思うのに。
「お前と付き合てもいいよ」
 まさかアンジーも、私がこんな行動を取るなんて思てもみなかたに違いない。
 全力で正面からタクルした。
 うぐと変な声を上げて、アンジーは近くの本棚にぶつかて、そのままずるずると床に座り込んだ。い、と顔を歪める。
「ふざけんなふざけんなふざけんな!」
 私の想いをなんだと思てるんだ。チクシウチクシウチクシウ!
「なめんじ!」
 私が地団太を踏んだそのときだた。
 本棚の上に置いてあた何かの箱が、アンジーの頭目がけて落ちてきた。
5 / 5
 頭全体が熱を持ていて、ぐわんぐわんとひどい頭痛がした。
 冷たい床にうつぶせに倒れていた。どうしてこんなところで転がていたのか思い出せない。目蓋をうすらと開ける。見覚えのある乱雑なタバコ臭い部屋。経済的じないから禁煙すればいいのにといくら言ても安東くんはタバコを辞めてくれなかた。いい加減付き合てんだから名前で呼べよ、なんて言うので、タバコを辞めないなら名前で呼んであげない、と言ても安東くんはタバコを辞めようとはしなかた。一も二もなく私への愛よりもタバコを取るのかこの男は、と思たら途端に興ざめした。付き合い始めて一月ちうど。結局安東くんのことを名前で呼ぶことはなかたな、なんて。あそうだ、別れ話をしてたんだけ。
 ゆくりと体を起こして、気がつく。
 すぐそばに、シトカトにスカジンというなんともボーな格好の女が立ていた。立ち尽くしたまま、微動だにしない。こちらに背を向けている。
 何を見ているんだろうと思たら、本棚にもたれて首を変な方向に傾けている安東くんの姿が目についた。
 そうだた。私は安東くんに引ぱられて転んで――で、なんで安東くんがこんなことになてるんだ? この女は何?
 一体何が起きたんだ?
 そろそろと立ち上がた。なんだか顔が湿ぽい。頭から出血しているようだ。救急車を呼んでもらおう。声をかけるつもりで、その女の肩を背後から叩いた。
 ばと振り返て私の顔を見た瞬間、女が「ぎ!」というかわいげもクソもない悲鳴を上げた。
 女は私の手を振り払おうとして足をもつらせ、安東くんの隣にうつ伏せの状態でびたんと倒れた。
 大丈夫? と声をかける間もなかた。
 何の不幸か、割れたお皿の破片が彼女の首の側面を深く抉ていた。真赤な血潮が噴き出て私の視界を染める。

 そして私は一人、この部屋に残された。
 シングルベル、シングルベル、鈴が鳴る♪
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