てきすとぽい
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てきすと怪 2015
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保管庫の住人
(
三和すい
)
投稿時刻 : 2015.09.18 06:49
最終更新 : 2015.09.23 01:45
字数 : 3419
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2015/09/23 01:45:17
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2015/09/23 01:43:40
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2015/09/21 06:57:54
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2015/09/20 21:15:23
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2015/09/20 20:34:29
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2015/09/20 19:39:57
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2015/09/20 10:49:24
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2015/09/20 07:16:02
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2015/09/19 21:48:43
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2015/09/19 07:06:09
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2015/09/19 07:04:12
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2015/09/18 15:57:59
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2015/09/18 06:57:22
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2015/09/18 06:49:58
保管庫の住人
三和すい
あれは、入社して一
ヶ
月くらい過ぎた頃だ
っ
た。
「竹中さん、ち
ょ
っ
と手伝
っ
てくれる?」
大先輩の桜田さんに頼まれて、一緒に地下の倉庫に書類を運ぶことにな
っ
た。
会社の地下に行くのは二度目、入社初日に社内を一通り案内された時以来だ。
「事務室に置く書類は、基本的に今年度と昨年度の分だけ。それ以前の書類はあまり使わないから、地下の保管庫にしまうんだ」
スー
ツの上着を脱いだ桜田さんは、書類を詰めた段ボー
ルをいくつも台車に乗せながら、そう教えてくれた。
エレベー
ター
で地下に着くと、狭くて薄暗い廊下をま
っ
すぐ進む。その突き当たりにあるのが書類の保管庫だ。桜田さんは課長から借りた鍵を鍵穴に差し込む。
「個人情報が載
っ
ている書類も多いからね。鍵はち
ゃ
んとかけること。それから電気のスイ
ッ
チはここ」
入口の横にあるスイ
ッ
チを入れると、桜田さんは保管庫の扉を開けた。
「失礼しま
~
す」
(
…………
あれ?)
先に保管庫に入
っ
た桜田さんの背中を見つめながら、私は首を傾げた。
今、挨拶した?
保管庫に誰かいる?
でも、部屋に入る前に電気つけたし、鍵がかか
っ
ていたよね
……
?
入口で立ちつくす私に、桜田さんはに
っ
こりと笑
っ
た。
「挨拶は大事だよ。社会人の基本だからね。きちんと挨拶をすると相手の印象が良くなるし、仕事もしやすくなる」
「いえ、あの、そういうことじ
ゃ
なくて
……
」
「そうそう。あの棚の奥にはなるべく行かないようにね。あんまりよくないから」
何が、とは怖くて聞けなか
っ
た。
(き
っ
と、冗談だ)
桜田さんはいつも面白いことを言
っ
てまわりの人たちを笑わせている。だから、これも冗談だ。たちの悪い冗談だ。冗談だと思うけど
……
。
私は保管庫の中を見回した。
中央に伸びる通路が一本。その左右にずらりと立ち並ぶ棚。
図書館に似ている倉庫の中は蛍光灯が古いのか、全体的に薄暗く感じる。じ
っ
と通路を見つめていると、棚の間から何かが顔を出してきそうな気がしてくる。
「さ
ぁ
て、ち
ゃ
っ
ち
ゃ
と片付けようか」
「そ、そうですね」
桜田さんの明るい声に、私はコクコクとうなづいた。
それからしばらくして桜田さんは他の営業所に異動にな
っ
た。
あれから会社の地下に行くこともなく数
ヶ
月が過ぎ、保管庫のことなどす
っ
かり忘れていた頃、
「ね
ぇ
、地下の保管庫に行
っ
たことある?」
昼休み、同期の松下さんが聞いてきた。
一瞬、桜田さんの顔が頭をよぎる。
「う、うん。一回だけ書類をしまいに行
っ
たことがあるけど
……
」
「その時、何もなか
っ
た?」
「
……
どうかしたの?」
「あそこね、何かいるみたいなの」
彼女の言葉にドキリとした。
「な、何か
っ
て
……
」
「え? またゴキが出たの? どこ?」
と先輩の女性社員が声をかけてきた。少し恐いところもあるけれど、一昨日給湯室にゴキブリが出た時には腰が引けた他の社員を押しのけて退治してくれた頼りになる先輩だ。さ
っ
そく読み終わ
っ
た新聞紙を丸め始める先輩に、松下さんは「違うんです」と小さな声で言
っ
た。
「そうじ
ゃ
ないんです。午前中に地下の保管庫に昔の書類を探してたんです。そうしたら
……
」
足音が聞こえたのだと言う。
保管庫にいるのは松下さんだけのはずだ
っ
た。だから気のせいだと思
っ
て書類を探し始めると、またパタパタと足音が聞こえてくる。
通路の方を見ると、す
っ
と黒い人影が通り過ぎた。
(何だ。誰かいたのか)
ち
ょ
うど良か
っ
たと松下さんは思
っ
たそうだ。探している書類が見つからず困
っ
ていたのだ。どこら辺にあるのか聞いてみようと棚の間から出ると、真ん中の通路には誰もいなか
っ
た。静まり返
っ
た保管庫に、他に人がいる気配がしない。
あれ、と思いながら棚と棚の間を一つずつ見ていく。人影が通り過ぎたのは、入口から保管庫の奥に向か
っ
てだ。必ず誰かいるはず。
けれど、保管庫の一番奥まで行
っ
ても、誰もいなか
っ
た。棚の間に隠れられる場所などないし、移動できる真ん中の通路一つだけ。
松下さんは急に怖くなり、慌てて保管庫から逃げ出したそうだ。
「もしかして、地下の保管庫
っ
て何か出るんですか?」
松下さんが聞くと、先輩は首をかしげた。
「入社してからず
っ
とここの営業所にいるけど、幽霊が出るなんて話は聞いたことないわね
ぇ
」
「そうですか
……
」
「大丈夫、気のせいよ」
先輩に言われても、松下さんは浮かない顔だ
っ
た。
そして、私は何も言えなか
っ
た。
(あれは桜田さんの冗談だし、別に何も起きなか
っ
たし
……
)
だから私は何も言えなか
っ
た。
松下さんが倒れているのが見つか
っ
たのは、午後の仕事が始ま
っ
てだいぶ経
っ
た頃だ
っ
た。
地下の保管庫で倒れていた彼女の上には、書類のフ
ァ
イルが山のように被さ
っ
ていたそうだ。見つか
っ
た当初は意識がなく、救急車を呼ぶほどの大騒ぎにな
っ
た。
幸いなはことに、彼女の意識は病院に着く前に戻り、足を捻挫する程度だ
っ
たらしい。
けれど、付き添いで救急車に乗
っ
た先輩の話によると、
「誰かが足を引
っ
張
っ
たんです」
松下さんはそう主張していたそうだ。
しかし、そんな話を信じる人がいるわけもなく、つまずいて棚にぶつかり、その振動で棚の書類が落ちてきたのだろうということに話が落ち着いた。
翌日、朝のミー
テ
ィ
ングで松下さんがしばらく休むと周知があ
っ
た。足のケガが原因ではなく、どうやら精神的なものらしい。
担当者が不在でも、いる人間で仕事は回さなければならない。
松下さんの仕事は私が引き継ぐことにな
っ
た。
つまり、私が地下の保管庫に書類を探しに行かなければならない。
「ついでに保管庫の掃除も頼む」
そう課長に言われた。
松下さんが転んだのは保管庫の整理整頓ができていなか
っ
たから、床に落ちていた物につまずいて転んだのが原因、というのが上司たちの意見だ。
(どうしよう
……
)
あの保管庫に一人で行かなければならない。
まさか「幽霊がいるみたいなので一人では行きたくないです」とは言えず、掃除道具を持
っ
た私は保管庫の扉の前に立ち尽くす。
い
っ
そのこと「具合が悪いです」と言
っ
て家に帰ろうか、けど明日にな
っ
たら会社に来ないといけないし、そうしたら保管庫にいかなくち
ゃ
いけないし
……
などと頭の中でぐるぐると考えていた時だ
っ
た。
――
挨拶は大事だよ。
不意に、桜田さんの言葉が頭によみがえ
っ
た。
ホウキを握る手にぐ
っ
と力を込め、大きく息を吸い込むと、私は勢いよく保管庫の扉を開けた。
「失礼します! 部屋の掃除をしに来ました!」
もちろん返事はない。
それでも私は入口でペコリとお辞儀をすると、保管庫に足を踏み入れた。
久しぶりに入
っ
た保管庫の中は、かなりホコリ
っ
ぽか
っ
た。床の隅にはホコリがたま
っ
ているし、輪ゴムやガムテー
プの切れ端とかがあちこちに落ちている。出入り口付近に置いてあるゴミ箱もい
っ
ぱいだ。
(もしかして、桜田さんが異動したから?)
思い返してみると桜田さんは時々地下の保管庫に行
っ
ていた。あれは書類を探しに行
っ
ていたのではない。たぶん掃除をしていたのだ。
「よし
っ
」
私は気合いを入れると、まず入口付近を片づけ始めた。
乱雑に置かれた脚立や段ボー
ル箱を片づけ、大きなゴミを拾い、床を掃き、拭き掃除で真
っ
黒にな
っ
た雑巾と集めたゴミをまとめて捨てる。
入口の辺りと中央の通路をきれいにしたところで、昼休みのチ
ャ
イムが聞こえてきた。
「残りは午後か
……
」
棚と棚の間の通路にもホコリが溜ま
っ
ているし、誰かが出し
っ
ぱなしにしたままの書類箱もあちこちにある。今日は書類を探すところまではいかないかも
……
。
ため息をつきながら、保管庫を出ようとした時だ
っ
た。
バサ
ッ
……
私の背後で、音がした。
もちろん保管庫には私以外に誰もいない、はず
……
。
恐る恐るふり返ると、中央の通路にフ
ァ
イルが一冊落ちていた。どこかの棚に入
っ
ていた書類だろう。
けれど中央の通路は私が掃除したばかりだ。ついさ
っ
きまでは何もなか
っ
た。
そして、書類が入
っ
た棚は中央の通路に対してどれも直角に置かれている。棚の書類が自然に落ちたとしても、中央の通路に落ちるはずがない
……
。
私はゴクリと唾を呑み込むと、フ
ァ
イルに近づいた。そ
っ
と拾い上げて中身を確認する。
それは私がほしか
っ
た書類だ
っ
た。
「ありがとうございます!」
私は反射的に保管庫の奥に向か
っ
て頭を下げていた。
それから私は時々地下の保管庫に行くようにしている。月に二、三回だけど簡単に掃除をしている。
保管庫に入る時と出る時にはあいさつを忘れない。
あれから奇妙な事が起きたことは一度もないけれど、私はこれをず
っ
と続けている。
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