てきすとぽい
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第29回 てきすとぽい杯
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ジャックと生足
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2015.10.17 23:36
最終更新 : 2015.10.17 23:41
字数 : 1339
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2015/10/17 23:41:01
-
2015/10/17 23:36:47
ジャックと生足
小伏史央
ジ
ャ
ッ
クはお父さんの生足がとても好きだ
っ
た。生足氏は長寿の賢人のように髭を蓄えていた。そしてそれと同時に日々の労働によ
っ
て鍛え上げられた生足氏はごつごつとまるで岩肌のように力強か
っ
た。ジ
ャ
ッ
クは彼を観察することが一日の喜びだ
っ
た。
ジ
ャ
ッ
クは彼を生足氏と呼んでいたが、実際は何と呼べばいいのかわからなか
っ
た。生足氏はお父さんの生足唯一その二本だけを指す。だというのに、世の中に生足は恐ろしいほど存在していた。たとえばお母さん(Mother)がグー
スカピー
といびきをかいて昼寝しているのを見るだけでも、生足を確認することができた。ジ
ャ
ッ
クはそれをマザー
グー
スカピー
と呼んで蔑んだ。お父さんの生足氏と比べると、それはがりがりで、見た目が悪か
っ
たからだ。
ジ
ャ
ッ
クにと
っ
て本当の生足は生足氏だけだ
っ
た。ジ
ャ
ッ
クはお父さんに見つからないように、畑の作業の合間合間に生足氏とコンタクトと交わし、幸福感を味わうのだ
っ
た。
ジ
ャ
ッ
クはお父さんと一緒に家の庭でソラマメとニワトリを育てていた。ソラマメは時期になると豆を生んだ。ニワトリも毎朝のように卵を産んだ。それらのまるいものは市場に行くとまるい銀貨と交換することができた。銀貨でまるいパンを買うことで、ジ
ャ
ッ
クは生活していた。
お父さんはしばしば、市場の近くにある作業場で労働することもあ
っ
た。その翌朝だけは家で卵を食べることが許された。ジ
ャ
ッ
クが卵を焼くたびに、生足氏は逞しくな
っ
ていくようだ
っ
た。
しかしお父さんは常に作業場のことを悪く罵
っ
ていた。作業場で言うのではなく、家でジ
ャ
ッ
クに向けて言
っ
ていた。あそこは危険だ、労働者のことをま
っ
たく考えち
ゃ
いない。生足氏が日に日に強くな
っ
ていくのは、あの作業場のおかげだろうに、お父さんはなんて恩知らずな言い方をするのだろうとジ
ャ
ッ
クは思
っ
た。
ジ
ャ
ッ
クは生足氏にそ
っ
と視線を向けて、彼に意見を求めてみた。彼は無言で貧乏ゆすりを続けるばかりだ
っ
た。ベ
ッ
ドではいつものように醜いマザー
グー
スカピー
が横たわ
っ
ていた。
その数日後にお父さんは死んだ。
作業場で大きな事故が起こ
っ
たからだ
っ
た。
生き残
っ
た人たちが瓦礫の中からお父さんを見つけ出すまで数日の時間かか
っ
た。ジ
ャ
ッ
クは作業場の人たちにつれられて、お父さんの死体を確認した。お父さんは死んでいた。
しかし、ジ
ャ
ッ
クは他のことに驚愕した。生足氏が、マザー
グー
スカピー
にな
っ
ていたのである! ジ
ャ
ッ
クは混乱した。髭は以前のように伸びていたが、ごつごつと強そうだ
っ
た生足氏が、がりがりに痩せ細
っ
ていたのだ。
混乱した頭のままそこから走り出し、家に帰
っ
た。もしかしたら生足氏はお母さんのところに引
っ
越したのかもしれないと考えたからだ。しかしそこにいるのも、マザー
グー
スカピー
だ
っ
た。
ジ
ャ
ッ
クは泣いた。まるい大粒の涙を流して泣いた。涙は大雨を呼んだ。彼らは死に水とな
っ
て生足たちの死を悼んだ。
生足氏は、いなくな
っ
てしま
っ
たのだ。
それから長い時間が経
っ
た。
ジ
ャ
ッ
クは今日も収穫物と卵を銀貨と交換している。そして定期的に何日かは作業場へと赴く。
それは辛い作業であるし、両親を早くに失
っ
たジ
ャ
ッ
クは孤独でもあ
っ
た。しかし、ジ
ャ
ッ
クは毎日が幸せだ
っ
た。
生足氏と再会したからである。
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