クリスマス前にやってきた小説大賞
 1  2  3 «〔 作品4 〕» 5 
クリスマス・イブの夜に
投稿時刻 : 2015.12.24 00:04 最終更新 : 2015.12.24 00:07
字数 : 5754
5
投票しない
目次
1.
2.
3.
4. 4
全ページ一括表示
更新履歴
- 2015/12/24 00:07:37
- 2015/12/24 00:04:56
4 / 4
4 長い長い夜

 さて、ドクロ仮面の策略により、同じ場所に集められた三人。
 これからいたいどうなるのか?

 それは、もうおわかりですね?
 なので、あとは皆様のご想像にお任せすることにいたしましう。








 ……と、思たのですが、この話が今年最後のいじり納め(たぶん)。
 特にヒツジさんをいじることは(おそらく)これが最後になるでしう(十二年後はわからないけど)。

 それならばと少し派手な展開を用意してみましたので、よろしければご覧ください。






 山の麓に立つ山小屋の中で、ドクロ仮面は獺祭の瓶を開けた。なかなか手に入らない日本酒だが、今日は特別めでたい日だ。特別うまい酒で祝杯をあげるのがふさわしい。
 酒をグラスに注ぎながら、ドクロ仮面は口元をゆるませた。
 今夜の計画は完璧だた。敵対する三人を同じ場所に集める。そうすれば互いに戦い始め(というかウサギさんが一方的に狩りを始め)、日付が変わる頃には少なくとも二人はこの世から消え去ているはずである。
「これで邪魔者はいなくなた」
 ヒツジ教祖は定時退社を信仰していた。その教えは残業に苦しむ多くの社会人たちの間に広まり、今ではたくさんの信者が集まるようになた。
 定時退社を崇める心を利用し、彼らを使て世界を変える。
 それがドクロ仮面の目的だた。
 そのためには、教祖であるヒツジが邪魔であた。
 邪魔と言えば、酔いどれペンギン剣士もそうである。
 今年はあまり表に出てこなかた酔いどれペンギン剣士であるが、闇では絶え間なく蠢いていた。今後何をするのかわからないペンギンの力は、ドクロ仮面にとては脅威である。ウサギの驚くべき執筆力も脅威ではあるが、彼女を手なずけるためのムーミングズはすでに発注済みである。
「これで、世界はボクちんのものー。ふはははは!」
 ドクロ仮面が高笑いをしながら、グラスを高々と持ち上げた時だた。

   ドカーン!

 大音響とともに入口のドアが吹き飛んだ。
 猛スピードで山小屋に飛び込んできた何かがドクロ仮面の前にあたテーブルを、テーブルの上に乗た酒瓶を、そして部屋の奥の棚を破壊する。
「あいたたた……
 崩れ落ちた棚の前で、ペンギン剣士が頭を押さえて座り込んでいた。しかし、すぐに立ち上がると、
「む、やはりこれは酒の匂い。酒はどこだ」
 周囲をキロキロと見回す。
「ペンギンちん! 何故ここに!?」
 ドクロ仮面は驚愕した。この山小屋は妻にも内緒にしている秘密基地である。自分がここにいることは誰にもわからないはず。
 ペンギン剣士がふり返た。ドクロ仮面にペタペタと近づくと、
「おお、これは酒! しかも獺祭ではないか! いただきます!」
 呆然とするドクロ仮面の手からグラスを奪うと一気に飲み干した。
 酔いどれペンギン剣士の完成である。
「ペンギンちん、何故無事なのだ!ウサギちんには会わなかたのか!」
「ウサギには会たぞ」
 酔いどれペンギン剣士はぶるると身を震わせた。

 ドクロ仮面に教えてもらたとおり、ペンギン剣士が雪山をえちらおちら登て行くと、カエデの木の下に何とウサギ少女がいた。
「まあ、ペンギンさん! クリスマス・イブにあなたと会えるなんて」
 ふり向いたウサギは目をうるませ、
「素敵な彼氏、ゲトー!」
 斧を振り上げて迫てきた(注:この場合の「迫る」は間合いを縮めることを指す)。
「ぼへえ!」
 驚いたペンギン剣士は、雪の斜面に身を投げ出した。流線型のボデはしかりと雪面にフトし、斜面を滑り出す。短い手で雪面をかき、さらに加速。山の木々を避けながら、ペンギン剣士はまるでボブスレーのように猛スピードで斜面を滑り下りていた。
 これで、ウサギから逃げ切れる!
 そう思た時、微かな酒の匂いに気がついた。
(これは日本酒!)
 本物のペンギンの嗅覚はそれほど鋭くないようだが、そこは酔いどれペンギン剣士。酒の匂いには敏感である。
 進路を変えて酒の匂いが漂てくる山小屋に飛び込んだというわけである。

「ボクちんの完璧な計画で、ペンギンちんとヒツジちんを葬り去るはずだたのにー
 悔しがるドクロ仮面の耳に、
「ほう。やはり、あれは罠だたのか」
 声にふり返ると、扉が吹き飛んだ戸口にモコモコの白い影。
「ヒツジちん! 何故ここに!?」
 ドクロ仮面はふたたび驚いた。ペンギン剣士に続き、まさかヒツジ教祖まで現れるとは思いもしなかた。
「まさか、ヒツジちんはウサギに会わなかたというのか……
 愕然とするドクロ仮面に、ヒツジ教祖は懐から取り出した煙草に火をつけながら、「いいや」と首を横に振た。
「ウサギには会たよ」
「では、何故無事なのだー!?」
「君は、俺の力を忘れたのか?」
……! ま、まさか!」
 ヒツジ教祖の執筆は速い。偶数月に開催される企画では、お題が発表されてから締め切りまでの一時間十五分の間に短編を一つどころか二つも三つも投稿するほどの速さである。
 山の上でウサギと遭遇した時、ヒツジはその速筆で短編を書き上げた。それも、わざと表記ゆれをして。
「表記ゆれが気になたウサギが赤ペンでチクを入れている間に逃げ出したというわけさ。そして、定時退社を愛する者たちのネトワークを利用すれば、君の居場所などすぐにわかるというもの。大人しく観念するんだな」
 煙草の煙を漂わせながら、ヒツジ教祖は言た。
「ぐぬぬ……
 ドクロ仮面は策略が失敗したことを悟た。
 しかし、ここで捕まるわけにはいかない。自分には世界を変えるという使命があるのだ!
 後ろを見れば、酔いどれペンギン剣士が刀(注:今回は呪われていないもの)を構えている。その姿に隙はない。
 一方、戸口にはヒツジ教祖が煙草をくわえて立ているだけ。
(突破するなら、こちだぽへー……
 そうドクロ仮面が思た時、ヒツジ教祖は懐から酒瓶を取り出した。細長く透明な瓶の中には、やはり透明な液体が揺れている。表面の白いラベルに書いてある緑色の文字を読んでドクロ仮面は叫んだ。
「その酒は、スピリタス・ウオカ!」
 そう。アルコール度数が96度の酒である。簡単に火がつくことは、ヒツジ教祖がすでに実証済みだ。
 煙草とスピリタス。
 どちらか片方だけでは恐ろしくないが、二つが合わされば話は別である。
(どうする?)
 前には発火物を持たヒツジ、後ろには刀を構えたペンギン。
 ドクロ仮面に迷いが生じた時だた。

「あら、みなさんでクリスマスパー? 楽しそうね」

 突然の声に、まずヒツジ教祖が部屋の奥に非難した。酔いどれペンギン剣士は刀を取り落とし、ドクロ仮面は目を疑た。
 入口から現れたのは、何とトナカイに乗たウサギ少女だた。
「何故、ここに!」
「何故て、もちろんあなたを追いかけてきたのよ」
 と、ウサギ少女はヒツジ教祖の前に立つ。そして、原稿用紙の束を渡した。
「やぱり、校正が終わた原稿は、書いた本人に返さなきね。さてと、これでスキリしたことだし……
 手ぶらになたウサギ少女の手には、いつの間にか斧が握られていた。
「さあ、みんなで楽しい狩りパーを始めましうか」



 しんしんと雪が降り続く夜の山に、絶叫がこだまする。
 予言者バール・グリーンの言葉どおり、サイレントでホラーな夜が訪れようとしていた。
続きを読む »
« 読み返す

← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない