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ウサギとキツネは、浜辺で出会いました。初めは、お互いに見たことのない生き物だと思いました。それでも誰もいない夜の砂浜でやっとみつけた相手です。キツネからおずおずと話しかけ、ウサギがそれに応えます。なんだか仲良しになれそうでした。満天の星のもと、暖かい夜気の中に優しいハートマークが膨らんでいきました。お互いに名前を名乗るまでは。
壮絶な喧嘩が始まりました。最初に甘い気持ちを抱いたぶん、怒りも増幅されました。口をきわめて罵倒したあとは噛み合い、蹴り合い、引っ掻き合いました。ウサギにとっては生まれて初めての喧嘩でした。お屋敷の中でふかふかの座布団に座っていた姿からは想像もつかないほど下品な言葉を吐き散らかして暴れました。なんだか四つの肢の先まで力が漲っていくようでした。キツネも、きょうだいたちとじゃれ合っていた子ギツネのころを思い出していました。もうちょっとで母ギツネから狩りの仕方を教えてもらえる、というところで人間に捕まってしまったのです。同じ大きさのきょうだいたちにはこんなふうにしていたな、と思い出すうちに、何だか涙が出てきました。月を見上げて、ひと声鳴きました。遠い昔、母ギツネがそうやっていたのを思い出したのです。人間に捕まってからは、声を出すとぶたれるので、いつのまにか忘れていました。砂にまみれながら、長い尻尾は鋭く風を切り始めました。
砂浜には、二つの影が仰向けに倒れていました。
「最低のクソ野郎」
ウサギが掠れた声で言います。
「へちゃむくれのカス」
キツネ荒い息を吐きながら言い返します。
「アンタみたいなやつ、ぜったいに許さないからね」
「そっちこそ、毎日喧嘩してやる」
真上を向いていたので、お互いの顔は分かりません。でも、高く上った月から見下ろせば、ふたりとも笑顔になっていたのが分かるはずでした。