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今回も本賞には多数の作品が寄せられた。最終的に3作品に絞られた訳だが、奇しくも似通ったテーマであるのはやはり時代のせいと言えるかもしれない。
たとえば、「シャン氏はぷっと笑う」の茶屋氏。実は私はこの作者の名前を他の賞でも見掛けている。今回の応募作に目を通し、意外だったのは作風の変化である。以前はトリッキーな設定やマジックリアリズム調の作品を得意としていた記憶があるが、今回の応募作ではそれらはなりをひそめている。むしろ3作の中で、最も本賞の傾向にアジャストしてきた節がある。
アジャストというと言葉は悪いが、選考委員の中にはこの変化を好意的にとらえる声が多く見受けられた。実際、時系列的に語られるシャン氏との関係は、奇をてらわず素直な小説と言えるだろう。特に選考委員の方々が評価したのは、最後の場面である。ある程度の関係を築き上げたシャン氏の正体を、ついに主人公は掴むことが出来ぬまま話は終わる。果たしてそのようなことが現実にあるのだろうか。「結局何者なのか」と問う主人公の独白はよくよく考えれば不自然にも思えるが、それを破綻なく書ききったところに作者の力量が垣間見える。
あたかも切り札のように最後の最後で自らのスタイルに転換させた手法は、意欲を感じさせるものだった。これまでの作品に比べれば若干のぎこちなさはあるが、読者の目を意識する才がこの作者には備わっているのではという、周囲の選考委員の意見には同意する。