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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 9
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人狼少年
 投稿時刻 : 2015.01.11 22:24
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人狼少年
ゲームスキー


  羊を守る子供ありて。或る日戯れに。同村のものを驚かさんと思ひ。狼来れり狼来れり。

                       ――小学修身談 『羊の番する子供の事』より。

 その少年には不思議な力が有りました。
鳥や獣、風の音や空の色から、少し先に起きる事を見通す力があたのです。
 尤も、歳を経ていればそれは大して珍しい力ではありません。ミツバチを追ていけば甘い蜜を持つ花の在処は分かるでしうし、沢山の、本当に沢山の空や雲や夕焼けを永い永い間見続け、雨や雷鳴や強い風や雪の日を憶え続けていけば天気の見通しだてつくようになるものです。

 問題は少年の老婆と性格に有り、そういた力を只管に厳しく教え込んだ婆と、黙ては居られない彼の性状が村に困た事態を引き起こしていた事でした。
「狼だ! アイツはきと狼だぞ!?」
 今やもう、半ば狂てしまた少年は村人を見ると、目を血走らせて憎しみに充ちた目で叫ぶのです。最初は笑ていた村人たちも、彼を見るとそそくさと逃げるように、或いは忌まわしいものでも見たように顔を背けると物陰に隠れるのが常になり始めていました。
 事の起こりは少年が詩人と出会た事でした。
詩人はこの地方にしかない野の花や食べる事のできる苦味のある草が好きで、森で小さな獣を仕留めては村に一軒しかない酒場に持ち寄り、苦草を添えては皆と食み、詩を歌いました。

 紅い花 蒼い花 朝日を浴びて
  小さく跳ねる水面の魚 梢を渡る噂好きの鳥

          彼方から此方へ 其処から此処へ――

 詩人は言います。自分は見たままを歌うのが好きで、詩から何を感じるかは聞いた者の心でしかないと。
少年は本当は知ていました。草花が香るのには理由がありますし、鳥が歌うのも魚が跳ねるのにも、それどころか小さな虫達が騒ぐのにすら理由があるのです。
 村には海がありません。
小さな川が二本、それは村一番の大きな畑の先で寄り添い、季節によて形を変える洲を取り巻きながら歩いては渡れない幅となて水車小屋の脇を抜け、遠く離れた山間の谷へと消えているだけです。
 鳥達はその先を知ていました。
詩人も昔は海辺に居を構えていた事があるとも言います。
 ですが村人達は海を知りません。

 水面の花弁 梢を舞う葉
  萌葱の嵐は雨に泣き 日差しに焼けた甚三紅――

戯れに酒場の娘が椀に挿した小さな花が、詩人の歌を承けながら静かに夜を越していきます。
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