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「あの子は本当に村の事ならなんでも知っているわ。この花もいつ咲くのか分かるもの」
その晩、萎れてしまった花を見詰める詩人に娘が言い、少年は次の晩に羊たちを小屋に追い込んでから酒場に呼ばれました。
「君は花がいつ咲くか知っているんだって?」
詩人が尋ね、歌を聞きに来ていた一人の農夫が朗らかに笑います。
「そんなことくらいなら、俺達でも誰だって分かるさね」
「どこに咲くかも?」
「それはその年によるさ」
「では彼は何が分かるんだい?」
少年は答えて言いました。
天気の事、草花が天気に従う事、獣達は草花に従う事…、それに大きな獣や村人達はそういった全てに従う事。
「僕が分かると言えば、村の人は分かったと思うだけです。刈り入れが近付けば晴れた日を選びますし、魚が食べたければ獲れる日を選ぶでしょう」
「間違う事は?」
「どうして僕が嘘を言うんです? 貴方はこれから詩を歌うでしょう。けれども僕が歌うと言ったから貴方が歌うのをやめれば、僕には何も分からないことになります」
詩人は少し考え込み、小さく笑ってから答えます。
「君は詩人の素質があるよ。哲学にもね」
長く旅を続けてきた詩人の髪は埃に傷つき、日に焼けて耳元で絡まり、襟首でほつれて酒場の明かりを吸い取っています。食卓の上の小さな楽器はその髪を僅かに太くした弦を何本か持っていましたが、異国の楽器であるので名前は誰も知りません。
詩人の指がゆっくりと楽器を撫で、いつの間にか消えてしまった笑顔と共に髪が僅かに流れ、羊飼いの少年は所在なく彼の前に並んだ料理をさ迷います。
その晩、詩人はそれ以上の話はしませんでした。