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No.1「融けない雪」
一読して小説以前の作品だと思った。主人公の空疎な一人語りが垂れ流され、都合の良いぬるい展開の末に諦めたような結論へと至る。作中の言葉にもあるが、まさに「適当」にかわして気取っただけ。こういう作品の評価される内輪の世界もあるのだろう。だが大家と呼ばれる作家が余技のつもりで書き散らしたような作品を無名のアマチュアが書いてみせることに少しは疑問を持つべきだ。
No.2「さようなら、またあした」
二回読み返した。ラブストーリーを読み落としてしまった自分の不明を恥じながら。だがやはりラブストーリーの要素はなく、途端に前半の雪だるまの一件が索漠として見えてきた。これだけ会話のできる年齢なのに雪が何か分からないという設定は何だろう。異世界を舞台にしているわけでもなさそうだ。となると単に雪だるまが解けただけの話だ。さも意味ありげに振る舞うことに無理がある。
No.3「あなたは今でも、魔法を信じ続けていますか」
中年男に騙された中学生の三十四年を経ての回想譚。主人公の語りのそこかしこに不自然なごまかしがある。男性の作者が中学生女子の生理感覚に追いつけていない。この作品のキモに当たる部分での腰砕けは致命傷だった。そう考えると年を取って成熟したはずの主人公の語りもどこか幼い。男性経験も重ねて四十歳を越えた今なら、こんな男の死など黙[ピーーー]るくらいになっていて然るべきではないか。
No.4「止まない雪」
モンブランの万年筆で書かれたレポートとスマートフォン、タバコを吹かす大学生、という時代がごちゃまぜになった不思議な作品だった。主人公格の宗次郎・敦史いずれも受動的でいまひとつ魅力に乏しい。鞄へのこだわりも内向きで、世界へコミットする意志に乏しい。先輩やカオルから近づいてくれなければ何も起こらないままだっただろう。「雪」の登場を含めて全体的にご都合主義が目についた。
No.5「桜のおさとう」
あれよあれよという間にストーリーが展開して最後まで読まされてしまった。幼馴染・不良・再会・友達がライバル、諸要素を枚数内に無理やりに納めた印象だった。この作品で評価できるのはただ一つ。ハッピーエンドに持って行ったところだ。ラブストーリーはアンハッピーエンドの方が書きやすい。それらしさも出せる。あえてお題に食らい付いて、とにかく二人を結びつけた点だけは評価したい。
No.6「雪の世界を抜け出して」
場面をシャッフルする手法には二つのメリットがある。一つは記憶をリアルに表現できること。人間は時間的に前後しながら印象の強弱に合わせて想起する。もう一つは、書きたいことが定まらない時にとりあえず書き出すのに向いている。この作品の場合は後者ではないか。南井が尻すぼみに退場し、僕と美弥子がなぜ惹かれ合ったのかも分からないままだ。「ミステリアスな彼女」の一言ではさすがに納得できない。
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【投票】 :No.5 桜のおさとう
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