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全感を書こうと気合いを入れてやってみました。まとまった感想というよりも思ったことの走り書きみたいな感じですけど。投票はぽいの方にやっておきます。
No.01 能無し(合間ぽてこ)
・・・非常に気に入りました。「ノーと言えない」「一音足りない」「何かを忘れている」。彼の音楽が周囲に与えた影響と、彼の死(あるいは彼の死をもたらしたもの)が世界に与えた影響が肝かなと思いました。能無しの男が命がけで「ノー」を世界に示したあとで、世界には争いが生じるわけです。「ノー」という本心を言えなかった人々が「ノー」を示すことは、争いにつながるわけです。せき止められていた何か(反逆的な力)が能無し男の「ノー」によってドミノのように(あるいはドミノそのものが)動き出してしまった・・・というように感じました。男の音楽が持つ影響というものは、だとすると人々を「ノー」と言える状況にするということかもしれません。
ただ面白いのが、あるいはこの読み方は全く逆だとも解釈できるというところで。世界に対して人々が「ノー」と言えるようになった、のではなく、人々が己の内に秘めていた何かしらの意志に対して「ノー」と言って抑圧して来たそのタガが無くなった、とも読めますね。(自分が勝手にそう読んでいるということで、「この小説はこういう内容だ」と決めつけているわけではないですよ)
ともかく解釈なんてどうでも良いんです。能無し、ノー無し、脳無し、こういうのは面白いですね。とくに短い文章においては中身がぴしっと引き締まるような気がします。
No.03 守りがみ(朝比奈 和咲)
・・・ムンクは一体なんだったんだろう?そういうお守りが実在したりするのかな?お守りの中身が偶然学校の花壇に埋まっているというのも不思議ですね。ムンクが「緑のおばちゃん」の姿に化けていたのも気になります。まさに奇妙な話で。まあムンクは「悪いもの」で、そしてお守りの力が主人公を守った、という筋に思えますが周辺に謎が多くて一筋縄でいかない感じがしますね。ピンクの紙に関しては・・・解釈を放棄することにしました。
最後、主人公は未だにそうしたよくわからないものの影を感じて一人暮らしを取りやめるわけです。お守りの庇護と家族の庇護が関わっているのかな?とも読めますね。ざっくりとしたことばかりで申し訳ないです。
No.04 工場(茶屋)
・・・ここは何の工場なんだろう?不可思議な出来事がよくあるみたいだし、業務内容もよくわかりませんね。工場同士で戦争というのも不思議な世界ですね。
No.05 ホロウ・ストーリー(木下季花)
・・・禅的なものを感じました(でもたぶんそういう話ではないんだろうなと思いつつ・・・)。不立文字というかなんというか。意味や理由ばかり求める世界というのは窮屈でたまらないですね。「何かのため」に人は生きているわけではない。万物が「何かのため」に存在しているわけではない。芸術は「感動させるため」に存在しているわけではない。意味や理由を求めると、即座にすべては道具になりさがってしまうわけです。それは虚しいことです。ただ一方で、意味や理由を否定したり放棄したりするとそれはそれで目的意識もなくて、緊張感が無いというか、なんでもない虚しいことになってしまうわけです。どうしたって、虚しいんですね。これを読んでいる時、意味を放棄してその虚しさから脱却しようとしても、やっぱり意味を失うことは虚しいことに他ならない、という禅問答的ジレンマがあるなと考えました。どうあがいても虚。精読のすえにこの話をそう解釈したというのではなくて、自分が勝手にそういうことを感じたというだけのことなのですが・・・。勝手な感想なので、勘弁してください。
No.06 キカの悲歌(木下季花)
・・・リルケのことは知らないんですが、それにしてもこれは奇妙な絵が続く話ですね。過去現在未来が並行していて、消えることなく残留してループしているような光景がずっと続きます。しかも自分自身も分裂して沢山存在していてわけのわからないことになっています。連続性に縛られた世界なのかあるいは逆に連続性を欠いた世界なのかという気もしますが、正直よく解りません(ごめんなさい)。そうした解釈を別にしても、音楽的というかリズム的なものを楽しめる小説なのではないかと感じました。
No.07 あなたのことがみえなくて(犬子蓮木)
・・・等身大ガンダム、レイバーが本物だなんて良いですね。新宿TOHOのゴジラも本物だったりして。しかし互いに外見がわからないまま愛し合うカップルというのは純粋な感じがしますね。肘掛けに手を置いているかどうか、透明だから解らない、という透明人間ならではのドキドキがあるんですね。「手をおろした。」→「なかった。」この流れが特に良いですね。と思ったらキスしてるという。映画館ではちゃんと映画見ろ!このヤロー!(冗談です)と思ったり思わなかったりしました。
No.08 空転言語生滅演説(ra-san(ラーさん))
・・・奇妙な話といいますか奇妙な文章といいますか。「妄想代理人」次回予告とか「パプリカ」で夢に冒された人が口走る台詞とか思い出しました。間欠泉式温泉便座はちょっとヤバイですね。ウォシュレットで人死にが出そう。よくわからなかったので、失礼な言い方ですが出鱈目なものがでてきたなあと感じました。
No.09 おおきく空振って(大沢愛)
・・・最近ある球団が延長十二回五時間に及ぶ試合、あとアウト一つという場面でサヨナラエラーしてしまって負けました。濁りきったどろどろの負けでした。それはまあ全然関係ないですけど、負けを追求するとは不思議なチームですね。個人的にはそのチームよりも捕手の気の効いた(?)采配が興味深かったです。
No.10超人ユキ子の一生(ほげおちゃん)
・・・力というものは持つべくして持つし、選ばれし者が選ばれるべきですね。それはある意味で絶望的というか、宝くじで大金を得ても結局本当のところで豊かにはなれないんだという示唆がありますね。「山月記」で李徴は虎になってしまうわけですけど、それを読んだ李徴的な人が教訓を得て虎にならずに済む生き方を出来るかと言えば、そうじゃない気がします。結局李徴的な人は虎になってしまうんだと思います。変わりたくても変われないという非情な現実があるわけです。
人はその人相応の人生しか送れないわけです。まぐれで過ぎた力を得ても、それで本人が変われるわけではない。しかしこの小説はそんなネガティブだろうか?というと、違うんじゃないかという気がします。ユキ子は力を十全に使いこなしているんじゃないかと。ともすればその力を好きにふるうことで、ユキ子はもっと違う劇的な人生を送ることも可能だったはずですが(本人はキッカケが無いと言っているけど)、彼女はしっかりと自分の生きるべき道がわかっていて、それを見失わなかったとも読めます。その力を得てもブレ無かった。そして相応に青春を生きて、清花や純花とごく人間らしい出会いをしているわけです。純花に話しかけるシーンから見てもこれは青春ものだなあと感じました。
ドラマやアニメみたいな、普通の人が夢想する人生よりも、青春があって幸福で、たまにバク宙する人生のほうがよっぽど良いかもしれませんね。李徴も虎ライフを満喫しているかもしれないし。
奇妙な話というお題でしたが、いろいろなモノが出て来て面白かったですね。作者側からみれば「何かよくわからないもの(あるいは世界観)」を出して、それについての説明を省いてしまえばそれだけで奇妙な話はできてしまうわけですけど((失礼な言い方ですが)不思議な感じ、不思議な力、不思議なモノ、とはぐらかせば良いわけです)。一方読み手側からみると四苦八苦するわけですが、しかし読もうと思えばいろんな解釈ができて、これは面白いです(全感では「わからない」とばかり書きましたけど・・・)。
全感を書きましたが、どう書いたものかとても迷いました。何を言っているんだこいつは?と思うところがあると思いますけど許してください。知らず知らず他にも失礼なことを書いていたらごめんなさい。